カーキ色のcar黄色 え、どっちやねん

隠れ豆粒

神か予言者かジェーケー

「私、君が心配だよ」

 唐突にそう切り出した佐江島の表情はとても深刻で、僕はつい身構えてしまう。

「え、なにが?」

 すると彼女はビシッと指を僕の頭に向けた。

「いつか、君のつむじが嵐を起こす日が来るんじゃないかって」

 言い忘れていたが、佐江島はバカなのだ。それは隠しようもない事実で、裁判を起こしたら勝つのは僕だ。

「へー」

 こういうのはさっさと綺麗に受け流すのが安住の地への最短の道のりである。変に相手をすると彼女は道端だろうと高校の教室だろうと容赦なく大声で熱弁し出し、そうなると気が済むまで止まらない全くたちの悪いジェーケーなのである。

「君のつむじは今にも風を起こし嵐で街を荒らすよ」

 無駄につまらないダジャレを入れてくるのもいつものことである。まだ布団が吹っ飛んだ方が面白い。

「はは、なにそれ、どこの星にそんな超人がいるわけ? もしそんなつむじを僕が持っていたなら僕は自然を操ってることになるから神だね神。はは」

 そして、彼女と長く話しすぎたせいか、時には僕にもバカが移る。

「そう、まさに神だね。髪だけに……くくっ」

 だが、決して彼女以上のバカにはならない。

 ふっと優しく頬を撫でた風を目で追うように空に目をやると、なんと僕の真上に渦が巻いていた。

 おい。

「あああ、やばいね!! ほらね!! やっぱり君のつむじが嵐を起こした!!!」

 彼女は嬉しそうに目を細めてるのか風のせいで目が開けられないのかわからないけど、とりあえず目を切った爪みたいに細めてニタニタ笑った。

 彼女が言うことはしばしば当たることがある。それはほんの些細なことから大きなことまで幅広く当たる。今回のも彼女が言った通りに僕のつむじが嵐を起こした(かはわからないけれど、とにかく僕の頭上で竜巻が発生した)。

 この間だって、「そのフラフラな足取りじゃいつかマキマキを踏むね」とわけのわからないことを言った彼女に「そんなわけないどろう」とすこし噛みつつ言った矢先、とぐろを巻いた茶色いヤツを踏んだ。たしかにマキマキと言われればとぐろを巻いているから巻き巻きである。

 で、結局何が言いたいのかというと、僕よりも佐江島の方が神なのではなかろうかということを言いたかった(かは定かではない)。神というか予言者というか。

 いや、佐江島が予言者で僕が神ということも有り得る。

 いや、でも、彼女が発言したとおりに事を進めようと目論んで僕を操っているのだとしたら、やはり彼女が神になる(どちらでもいいが)。

 最後の最後になにが言いたかったかというと、なんだかんだ言って彼女のことを気に入ってるということだ。だから僕はどんなことでも彼女が言ったことが実現してしまったなら受け入れようと決めている。そう決めていれば、もし彼女が「私と君はいつか結ばれる運命にある」とか言った時にはそれを理由に結ばれてしまえるからである。

 端的に言うと、僕は佐江島がす、す、好きなのであるる。

「ねぇ、佐江島」

「ん?」

 学校のバックをぶらぶら揺らしながら嵐が過ぎ去ったあとの空を眺める彼女の横顔は女神。だが、決して見た目を理由に好きになったわけではない(かわいいけど)。そこまでたわけではない。好きになった理由は……なにを言っても後付けになってしまう気がするので、理由はないことにする(それなら見た目に惹かれた可能性もあるのだろう)。

「ひとつ頼みがある。これから僕が言うことをそっくりそのまま、何も考えずに言ってほしいんだ」

「いいけど」

 彼女はキョトンとした。なんて罪な目をしているのだろう。

「じゃあ、いくよ?」

「いいよ」

 深呼吸。

「私と君はいつか結ばれる運命にある」

「私と君は五日結ばれる運命にある」

 言った。言った言った! はは。

 これで一生佐江島と一緒に過ごせる。



 その後五日間だけ結ばれたふたりであった。


っていう夢を見た。夢でよかった。ほっ





 で、一体なにが言いたいのか、わかった人はぜひ僕に教えて下さい。僕にはさっぱりわかりません。

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