見つけられた僕は

金子ふみよ

第1話

 僕は新発見された生き物らしい。僕のお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんどころか、もっともっとさかのぼるご先祖様の時代からずっと人のそばで暮らしていたのです。それなのに、今になって人々はお祭りのように騒いでいます。

家族や友人などはまだ見つかってないようです。というより、僕たちは話し合って決めたのです。人と交流してみようと。では、誰がそれをするのかと話し合いました。  僕は以前からとても興味があったので、立候補しました。

 人が作った、ごつごつしていない道に出て待ちました。二日ほど経って、人は僕を見つけたのです。

 とある研究室に連れて来られ、檻の中に僕はおさめられました。

 それから数日。確かに動くのには狭いですが、空調が整っており、食事も悪くはありません。ただもう少しうす味が好みなのですが。欲は言っていられません。

 僕の大きさや重さ、手足が動く範囲を計測してから、そのほかに検査がありました。このあともいろいろと予定されています。研究室の壁にはそれがぴっしりと書かれています。子供にでもできることをわざわざさせられるのは、とても億劫です。

けれども、空き時間に部屋の中でテレビやラジオを見聞きできます。それは、とても興味がそそられています。人はこうやって時を過ごしているのです。時だけではありません。人は、人々のことだけではなく、人の知らないことをも知ろうとしているのです。やっぱり人というのは調べがいのある生き物です。

 その僕も、二人の人に調べられています。博士と教授です。

「これはきっと恐竜だろう。絶滅してなかったんだな」

 博士がフムフムと言い出すと、

「いやいや、それにしては小さすぎるし、翼のようなものもある。きっと鳥だろう」

 教授がクリップボードにメモをしながら反論をしました。

「鳥? それにしては羽毛がほとんどないじゃないか」

 博士は虫眼鏡で僕の肌をギロと見つめました。

「だから新種なんですよ。ん? この大きさなら、新種の昆虫ってことも……」

 教授は持っていたペンで頭を掻きました。

「昆虫の定義に当てはまらないだろう」

 博士が言うと、二人とも机にあった図鑑や文献を何冊も開いては閉じました。

「まさか! これがあのツチノコなのでは!」

 教授がわざとらしく驚いたように両手を上げました。

「冗談はそこまでだ。だいいち、そんなものがいたら、とっくに見つかってだろう?」

 博士は眼鏡をクイっと上げて、教授をにらみました。

「けれども、そんな気分にもなるなあ。せめてこの生き物がしゃべってくれたら」

 博士は眼鏡を外して目をこすりました。

「君が冗談を言うのは珍しいな。でも、僕も君に同意だ」

 教授は腕組みをして博士を見ました。そして、二人して乾いた笑いを一瞬しました。

 僕は言ってみることにしました。日本にずっと住んでいましたが、英語でしゃべることにしました。英語ということばなら、どこの国の人にも通じると知っていましたから。

 僕が声を出すと、

「なぜ騒いでいるんだろう。それにしても、すごい抑揚だな」

 博士は眉毛がくっつくくらいにいかめしい顔になっていました。それがずいぶん面白くて、僕は笑い出してしまいました。

「もしかして、これはことばをはなしているんじゃないか?」

 教授がひらめいたように、博士の顔を見ました。

「そうか。それなら」

 博士はコンピュータにつないだマイクを僕に近づけました。

「ほら、しゃべってごらん。私たちに分かるように」

 教授が手を差し伸べました。しゃべりが短いと分かりにくいのかと思い、長々としゃべることにしました。新種なんかではないということ。ずっと暮らしてきたこと。食事の味を変えてほしいこと。そして、できれば早く帰りたいこと。

「う~ん。何とも言えないな」

 博士はコンピュータの画面を見ながら渋い顔になっていました。どうも伝わってないようです。

「集めた単語が少ないのかもな。これは長丁場になるぞ!」

 教授は嬉しそうでした。せっかく人のことばを選んで話しているというのに、理解できないことを喜んでいるのは、どうしてでしょうか。

 博士と教授に何度も訴えました。発音に気を付けたり、ゆっくりと言ってみたり、同じフレーズを繰り返したりしました。

 それでも、二人はコンピュータの画面を見ながら、ああでもないこうでもない。これがこうで、あれはあれでとずっと議論しているばかりでした。

 夜がふけり、二人は帰っていきました。結局、博士と教授に、僕の言うことはまったく伝わりませんでした。コンピュータも使っているというのに。

 僕はためいきを何度かしました。仕方なく、もう寝ようと思いました。

 ふと見ると、コンピュータの電源が切られていませんでした。そこで僕は手をするりと伸ばしました。キーボードをカチカチと打つと、檻の鍵が開きました。ついでに博士と教授がうなってから何やら作成していた画面を見てみることにしました。本当にうんざりするくらいに、的外れなことが書かれていました。

 そっとドアを開け、僕は逃げ出しました。

 僕は仲間に言うことを決めました。これからは人からは遠く離れて暮らすことにしようと。

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見つけられた僕は 金子ふみよ @fmy-knk_03_21

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