心に春風プリンの香りとともに

やのつばさ

第1話

 俺はノリが良い方だ。よく一緒にアホやってくれるダチのことが、実は好きだった。でもこの関係を壊したく無くて、絶対に言わねーって決めてた。


 決めてたはずなのに、卒業っつー雰囲気のせいだったのか、魔がさしたっつーか、ワンチャン狙ったんだよな。もしかしたらってさ。


 「俺、お前の事好きだわ」


 「おぅ。俺もだ。大学は違うけどたまには会おうな涼太」


 「そーだな、たまには遊ぼうぜハハッ」


 


 まぁただ失恋したっつーだけのよくある話よ。


 だがそんな事を、未だ引きずってる俺は新しい大学生生活も全然やる気が出ない。


 俺から連絡取るなんて出来やしない。

こんな感じで少しずつ会わなくなってくんだろうな。イヤ会わない方が良いんだろうな。

このまま忘れた方がいい。


 いまだ大学で連む相手を積極的に作る気にもなれず、廊下の隅にある自販機が沢山並んでいて、ちょっとした休憩が出来る様に目隠しされているベンチコーナーで、1人ウジウジと次の講義までの時間を潰していた。


 そんな俺の所へガラゴロと台車の音が近づいてきた。


 (あー自販機の補充かなぁ。俺ここ居たら邪魔か?でも動くのめんどーだなぁ)


 なんて考えている間にもう補充の人が来てしまった。


 (まぁいっか)


 「お。補充するからちょっと煩くなるけど悪いね、休んでるとこ」


 (こんな事話しかけて来る人いんだなぁ。仕事なんだから気にする事ねーのに)そう思いながら俺はペコっと一応頭を下げた。


 ガラガラガラーゴロゴロゴロー、手際よく次から次に缶が自販機に吸い込まれていくみたいだ。こういうのって見てるの好きなんだよなぁ。


 飲み込まれてく缶を見続けていたら、補充している男性とバチッと目が合った。


 (ヤベっ。じっと見てて感じ悪かったよな)


 慌てて下を向いた。


 「あのさ、今ちょっと時間ある?」


 「え?あ、はい。次の講義までは……」


 「これ、サンプルなんだけど飲んでみてくれる?あー今じゃ無くても良いんだけど、感想聞かせてよ」


 「へ?あ、はい」


 「ついでにさーここの自販機に、入れて欲しい商品ある?今の若い子はどんなのが好きなのかな?君の好みの物でも良いよ」


 「あー、甘いの増やして欲しいっす、ゲロ甘いのとか……」


 俺はここの自販機には甘さが足りないってずっと思ってた。よくここで時間を潰してんだけど、カラダに悪そうなゲロ甘なジュースが飲みたいって思ってたんだよなー。


 「あ、イヤでもそんなに売れないかも……」


 「君甘党なの?それじゃこれは物足りないかーよし甘いの増やしてみよう」


 「え?そんなに簡単に良いんすか?」


 「あー、まあね。ある程度好きに出来るんだよ。次入れ替えてみるよ。甘いのねー」


 (そんなに簡単に変えていーもんなんだな)


 「貴重な意見を貰ったんで、お返しにこれ貰って」


 と俺の手に何かを握らせた。


 「んじゃ、またねー」


 手を振ってガラゴロ音が遠ざかって行く。


 突然の思いがけない出来事で、ウジウジ悩んでばかりの何も無い毎日に風が通った感覚がした。


 (なにもらったんだろ)


 手を開けてみたら棒付きの、あのお馴染みの飴だった。俺が一番好きな味でよく食べてるプリン味。だが棒の所にメモ用紙がおみくじみたいに結びつけてある。これは馴染みは無いな………


 高田明英 090–5*2*–****

 

 ん?連絡先?名前と電話番号、メッセージアプリのIDが書いてあった。


 なるほど、サンプルの感想をこれで連絡しろと言うことかな?


 おっけーおっけー。ただでもらっちゃったし、感想くらいどーって事無い。


 あっ、そろそろ時間だなー移動すっかー。


 それにしても、今のこの時代に、こんなにあっさり見ず知らずのヤツに連絡先なんて教えちゃって、危機管理大丈夫かな、高田さんは。


 そんな心とは裏腹に俺の顔は知らず知らずに笑顔になっていたようだ。


 まだ肌寒さの残る青葉の季節、涼太の知らないところで何かが動き出そうとしているのだろうか。




 


 

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