3.事件
また
僕はできるだけ早起きをして、朝ごはんもきちんと食べ、
ところが、今日に限って夏美は現れなかった。
昨日は
いや、そんなはずはない。
ひょっとすると向こうから呼びに来るのではなく、こちらから彼女のところに行かなければならないのだろうか。
「しょうがない・・・
僕は門から出ると、さっそく
いったいどこに行けばいいのか分からない。
しかし、
「聞いた?
「またなの? 最近多いわねえ」
「そうなのよ。もう3軒目じゃない? 近所だから
「ほんとねえ。あたしも気をつけなきゃ」
大崎……? どこかで聞いた名前だな。
――そうだ、何年か前に同じクラスに大崎ってやつがいたな。2、3回遊びに行ったことがあったっけ。
ええと、たしかあいつの家はこの角を曲がったところだったような。
と、曲がり角から大崎の家のほうを見ると、そこに夏美の姿があった。
「夏美ちゃ……
近づいて声を掛けてみる。そうすると夏美は
「遅い! いったい何時間待たせるつもり?
「待ち合わせなんかしてなかったじゃん」
僕が
「……ほんと生意気ね。そんなの、待ち合わせなんかしてなくても、アンテナはってたらどこに行くべきか分かるはずよ。ちゃんと15分前行動できるようになりなさい」
そんな無茶な! 僕はエスパーかよ。もうちょっとで口に出すところだったけど、言葉は飲み込んだ。どうせ聞いてくれないんだから。
「まあいいわ、付いてきて」
そう言うと彼女は昨日と同じように大崎の家に勝手に入っていく。
「なるほど、やっぱりそうか」
「なに、どうしたの?」
「まったくもう、一体何を見てるのよ。あのねえ、そこに
「犯人って、空き巣の?」
「この家はブロック
ただの
「はあ、なるほど」
我ながらひどい返事だとは思うけど、
「だいたい分かったわ。出ましょ」
大崎の家から出ると、彼女はそのまま歩きだした。
「どこに行くの?」
「次に
「ええー! そんなの分かるの?」
「当たり前じゃない」
「すごいね。なんでわかるの?」
僕の素直な
「はぁ、ほんとに使えない助手ね。まあいいわ。あたしも考えを整理したいから話してあげる。今まで空き巣に入られた家は、
1.窓が道路から
2.昼間に
3.家の入口を
っていう
そういえば、昨日もそんな話をしていたような。
「ああ、家の前の車とか?」
「そうよ」
そう言いながら、夏美は一軒の家の前に立った。
「そして、それらを
指さす先を見てみる。確かにこの家もブロック塀に囲まれている。中に入ってみると、道路から見えないところに窓があった。
「ほんとだね」と言おうと夏美を振り返ると、彼女はじっと足元を見つめている。
その
「きれいだね」
「うん。
「え、それって……」
夏美は少し悲しそうな顔でコスモスを見つめている。
昔好き
ややあって、僕の視線に気づいた彼女はそれから
そして、インターホンの前に立つと、
「ちょっとなにする――」
僕が止める間もなくボタンを押していた。
これで家の人が出てきたらまた僕が悪者にされてしまう。思わず息を止め、じっと家の様子をうかがうと、妙に静かなことに気づいた。
「
「ほっ、良かった」
「なにが良かったのよ」
「だって、家の人が出てきたらまた僕が勝手に入ったとか言うんでしょ」
「くだらない事言ってないで、さっさと出るわよ」
まったく、自分勝手すぎる先輩だ。いや、正直先輩っていう設定もすっかり忘れていた。
仕方なく僕も外に出たが、
「早く来なさいよ」
僕も夏美にならって自動販売機の
「こんなところに
「は? 何言ってんのよ。犯人を
「ええっ、本気で?」
まったく、そんな当てずっぽうで犯人が見つかるわけないじゃないか。
「当たり前でしょ。……でもまあ
夏美は僕の言葉を違う方向に
そして、周りを見回すと急に立ち上がり、タバコ屋に走っていった。少し背伸びしながら
どうやら誰か大人に来てもらうようだ。
その後、しばらく二人で見張りを続けていると、息をきらせた
ちょうど良かった、
と、そこで夏美が自動販売機の陰から出て、
「思ったより早かったわね」
と言った。
「はぁ、はぁ、ちょっと、夏美ちゃん、どうした、のよ、こんなところに呼び出して」
どういう事だろう。この二人は知り合い? という事はさっき電話で話していたのはひょっとしてこの人だろうか。
「先輩、警察の人と知り合いなの?」
そう言うと、夏美はにやりと笑った。
「ふん、こんな事もあろうかと、何度かわざと
え、何言ってんのこの人。もっと他の方法あるだろ。
「狙われてるのはあの家よ」
「まったく、あなたはそんな事言って。確かにこのあたりで空き巣
「せっかく
「何よ――」
まだ何か言いかけた婦警の口を強引に手で押さえた。
「しっ!」
夏美は婦警を自動販売機の陰に引っ張り込むと、家の方を指さした。
そこには、
「あれ? あの家って留守だったよね?」
「えっ、本当に?」
「ほんとよ。ずっとここから見張ってるけど、誰も家に入ってないわ。今こそ
「そ、そんな! 私は
「そんな警察の
この人、
僕が
3人が門のところからそっと中を
僕みたいな子どもにはどうしようもない。ふと婦警を見るとさすがに覚悟を決めたのか、きゅっと表情を引き締める。ふう、とひとつ
犯人は
ところが、奥は行き止まりで逃げ場がなく、くるりと反転するとこちらに
「わあああああ!」
犯人は
「あの、大丈夫ですか?」
婦警に近づくと、「あいたたた」と言いながら立ち上がるところだった。
「ええ、ありがとう。ちょっと
立ち上がってお尻についた
そこへ夏美がどすどすと
「もう、何やってんのよ! ちゃんと
自分だってささっと横へ避けたくせに、よくそんな偉そうに言えるもんだ。まあ、僕も避けたんだけど。でも僕は偉そうには言ってない。
「そんな事言ったって、急に突き飛ばすんだもん」
「顔はちゃんと覚えたんでしょうね」
最初、きょとんとした婦警だったが、しばらくして言葉の意味を理解したのか、急に
「あの、そのー、
夏美は大げさにため息をついた。
「まったく、ほんと使えないわね。じゃあ、これでどう?」
そう言いながら手をピッ!と差し出す。人差し指と中指の間にはポラロイドの
婦警を突き飛ばした瞬間らしく、きれいに
「すごい! 顔がバッチリ写ってるね!」
「夏美ちゃん、ありがとう! これなら大丈夫よ」
「ふん、当然じゃない」
あ、またちょっと
この先輩、やっぱり
今回は犯人が逃げて行ったから良かったもけど、もし
これはちょっと夏美の
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