百合の尊さを守るが私の使命です ~ 百合に挟まろうとする男には死を ~

佐久間零式改

第1話



 私の名前は咲屋三智えみや みち


 私立桜ヶ守女学院しりつさくらがもりじょがくいんに通う花も恥じらう高校一年生。


 桜ヶ守女学院は中高一貫のお嬢様だけが通う花園と言われていて、全国の女子達から憧れの学院に言われているの。


 そんな桜ヶ守に私みたいな、へちゃむくれでちんちくりんが通う事になったのは、私の家系は代々忍者をしているので、その縁故かもしれないけど、使命によるものだって思っているの。


 その使命っていうのは、尊さを守る事。


『咲屋三智くん、我が学院に通う女子達にまとわりつく塵芥ちりあくたを排除する者としての役目を期待している。君は尊い存在になるのではなく、尊さを愛でる気質であるとも聞いている。期待している』


 入学式の後、桜ヶ守学院の理事長さんに呼び出されてそう言われているの。


 理事長さんの事前調査は的確で、私は尊い存在になるのではなく、尊い人達を遠巻きに見ている方が好きなの。


 私みたいなへちゃむくれで、顔面偏差値が下から数えた方が早いモブ顔なんて尊い存在からはほど遠いし、なんていうのかな、尊い女子のカップルを見ているだけで、薔薇が咲き乱れて、心が満たされていって満足しちゃうっていうのがあるのかもしれない。


 現に今、私の前を歩いている上級生カップルで至高とさえ言われている、八井田真穂やいだ まほ先輩と三位向日葵さんみ ひまわり先輩が並んで歩いて談笑している後ろ姿を見ているだけで、うっとりしてきちゃうの。


 学校が終わって、駅までの道のりをただただお話をしながら歩いているだけなんだけど、そのお二人の姿が色とりどりの薔薇で囲まれているように私の目には映っているの。


 現実ではそんな事はないはずなのに、見えないはずの薔薇が見えて、キラキラとお二人が輝いて見えるの。


「ひまわり、それは違うよ。あの先生は耽美的なんだよ」


「そうかしら? 耽美というよりもトンビよ」


「ははっ、それは言い過ぎだよ。ひまわりとあの先生の相性が悪いからそう感じるだけであって、あの人は随分と美こそ全てなのだよ」


「まほは、わたくしとあの先生の美的センスが異なるが故に意見の相違が見られると言いたいわけね」


「さすが、ひまわり。ボクの言わんとしている事がよく分かっている」


「わたくしにまほの心が読めないと思って?」


「ははっ、そうだね」


 嗚呼、尊い……。


 お二方の尊い姿を見られて、私はなんて幸せなのかしら。


 しかも、お二方の美声まで聞こえてきて、もう胸が張り裂けそう……。


「ねえ、そのお二方さん」


 ん?


 私の視界に咲き乱れていた薔薇がその男の一言で一瞬にして消えた。


 いつの間にか、向日葵先輩と真穂先輩の前にチャラい服装をした、これまたチャラそうな面持ちの男が二人ほど立ちはだかるように立っていた。


「俺達とお茶しない? ちょうど俺達も二人だし問題ないよな?」


 しかも、ニタニタと下卑た笑いを浮かべて、尊いお二方に迫っていた。


 問題大ありよ。


 貴様らのような虫けら……それでは、虫けらに失礼よね。


 虫けらじゃなくて、糞虫がいいわね。


 うん、糞虫風情が尊きお二方に声をかけるなんて万死に値しするわよね。


 胸を満たしていた素敵な思いがすっと波が退くように消えていく。


 そして、私の心に現出していったのは、静かなる殺意。


 糞虫風情が尊きお二方と僅かでも会話を交わすのなんて世間が許しても、この私が許さないの。


 糞虫、死すべし。


 そんな思いと共に、身体が思考よりも先に動いていた。


 縮地しゅくちのように素早く糞虫二人の前に立つや否や、糞虫その一の顔面に右手で掌底打ちを叩き込んで吹っ飛ばし、糞虫その二に土手っ腹に左肘を叩き込んで、これまた吹っ飛ばした。


 糞虫二匹をお二方の視界から僅か数秒で消すなり、お二方の視界から消えるべく私はすっと上へと飛んだ。


「?」


「?」


 お二方が一瞬にして目の前の糞虫二匹が消えたものだから、狐につままれたような顔をして周囲を見回す。


 その間、視界にあの糞虫が再び入らないように、さらにもう一撃ずつ加えて、さらに遠方へと叩き出していた。


「……糞虫ども。今度、私達桜ヶ守の者達に声をかけた時は命がないと思え」


 私はきちんと糞虫たちに最後通告をして解放したの。


 ああいうウジ虫みたいな存在は、きちんと分からせておかないと愚行を繰り返しかねないから当然よね。


 糞虫どもが返答する前に私はその二人の視界から消えた。


 あんな奴らの声なんて聞きたくもないし、聞いたら聞いたで耳が腐りそうだし。


「……ひまわり、ボク達は幻を見ていたようだね」


「……ええ。二人でありもしない幻を見てしまったようね」


 二人はあの糞虫二人に話しかけられた事を幻だと思う事で納得してくれたようだ。


 そして、お二方は何事もなかったかのように会話を再開してくれた。


 ああ、尊い。


 お二方が何気ない会話をして微笑み合っている姿を見ているだけで、やっぱり心が満たされてくるの。


 ああああああ、お二方の周りに可憐な薔薇が咲き乱れている。


 私の視界の中だけで。


 嗚呼、なんて尊いのかしら。


 私は尊さを守りたい。


 そう思うの。


 そう願うの。


 守る事こそが私の役目なの。


 この桜ヶ守学院の尊さを守るために私はいるの。


 守りたい、この尊さを。


 私の力で。



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