好きって何だろうね

卯野ましろ

好きって何だろうね

「あたし、今度あの人と付き合うから!」

「聞いてよ紗綾さあや! あのバカ男……」

「女は上書き保存! 次の恋、次の恋!」


 私の幼馴染みは、なかなかの恋多き女だ。そして彼女が恋をする度、私は思う。


「どうして私じゃないの?」


 しかし、これは恋なのか何なのか。自分のことなのに分からずにいる。


「そうかぁ~。まーちゃんは今日、合コンかぁ」


 とある休日。今、私はもう一人の親友とカフェにいる。久々に会う彼女は相変わらず……いや、ますますかわいい女の子になっていた。


「合コンの日程が決まったときから、すっごい気合い入っていたよ……。あれでは、きっと空回りするね」

「アハハ! やっぱり、さーやんは分かっているねぇ。さすが幼馴染み!」

「コトリンに彼氏ができてから、より真朝まあさの鼻息が荒くなったな……」

「なんか悪いね~」

「あ、コトリンは悪くないよ。むしろ私の言い方が悪くて、ごめん」

「さーやん気にし過ぎ~。わたし全然気にしていないもんねー!」

「フフッ」


 目の前のかわいい女の子がおどけてきたから、つい笑ってしまった。


「わーい、さーやんにウケた~」


 私たちの親友である飛永琴梨コトリンは、中学時代からの付き合いだ。私と同学年で書道部に所属していたのは、コトリンと真朝だけ。部活見学で初めてコトリンを見たとき、真朝と一緒になって「あの子かわいい……!」と騒いでしまったのは良い思い出だ。

 そして、その美少女が相当なオタクだったことを知ったときの衝撃も忘れられない。それだけに……。


「コトリンに彼氏ができたと知ったときは驚いたよ。自分の恋愛には興味ない子だと思っていたから」

「わたしも高校で好きな人ができるとは思ってもいなかったなぁ……。それまで二次元しか興味なかったのに」


 コトリンが恋した相手は、しっかり者の美少年だった。勉強も運動も何でもできて、かわいらしい顔だけど性格は男前で兄貴肌。妹キャラなコトリンとは相性抜群で、お似合いな二人。お互いの身長が同じなのも、まるで双子のようなニコイチ感が出ていて良かった(彼は160cmという身長を、すごく気にしているけれど……)。


「私、真朝が『コトリン……あれだけ二次元と結婚したいとか言っていたくせに~っ!』って荒ぶっていたの忘れない」

「うわーそのまーちゃん見たい!」

「いやぁ~恐ろしいよ~……」

「ハハハ!」


 二人で笑い合った。確かにコトリンは恋をして色々と変わったけれど、変わらない部分もあってホッとした。


「……ま、私も真朝のこと言えないんだけどね」

「お、やっと本題でござるな?」

「……うん……」


 コトリンは知っている。

 私が真朝に抱いている気持ちについて。


「私は真朝に彼氏ができる度に、つらくなる。それは淋しいのか、私が真朝に恋をしているからなのか……まだよく分かっていないんだよね。友情なのか恋愛なのか」

「……」


 コトリンは私の話を黙って聞いてくれている。みんなを楽しませるのが大好きな彼女は、愛嬌とユーモアだけでなく、きちんと真剣に向き合ってくれる優しさも兼ね備えている。


「私、別に女の子が好きってわけでもないし。好きって何なんだろうね。変だよね私」

「……てぇ~……」

「……へ?」

「てぇてぇっ!」


 そして、オタクならではの感性も。

 また始まってしまった。

 まあ、そうなることを想定して私はこの子に話を聞いてもらっているのだけど。


「はぁ~っ、尊い! 相変わらず尊いよ、さーやん! 幼馴染みへの熱い想い! 悩みに悩む健気さ!」

「な、何も拝まなくてもっ……」


 しかし、今日は少々度を越えていないか?


「あーてぇてぇな、てぇてぇな!」

「ちょっ、もうやめなよコトリン!」

「でも変とか言うのはいただけない」

「え?」


 ここで、コトリンの顔付きが変わった。真っ直ぐに私の目を見ている。


「わたし、さーやんのまーちゃんに対する『好き』が変だなんて全く思わないもん。それが恋だとしてもさ……好きになった子が、たまたま女の子だったってだけだよ。まあ友情でも恋でも、わたしにとってさーやんとまーちゃんの関係は尊いものに代わりはないけどね! 好きは好き。それで良いよ!」


 言い切った……。


「……どやぁ~……」

「……ぷっ」


 照れ隠しなのかウケ狙いなのか、よく分からない付け足しに笑った。


「ありがとう、コトリン」

「えへへ……」


 自分の気持ちが何なのかは、まだはっきりしてはいない。けれど、目の前にいるかわいい女の子の言葉を信じて、前を向いていきたいと思った。


「ねぇ、さーやん」

「何?」

「これ、小説のネタにしてOK?」

「……個人情報を明らかにしなければ良いよ」

「ありがとっ!」


 創作するタイプのオタクであるコトリンは、抜け目がなかった。

 でも憎めない、そのちゃっかり。


「あ、ソラくん元気?」

「うん! そういえばソラくん、さーやんのこと『接しやすい!』って言ってた!」

「……接しやすいっていうのは、ソラくんの言葉じゃないよね?」

「はい、わたしの言葉です。ソラくんは『良い女友達ができて嬉しい』って喜んでいたよ!」

「本当に好きだね、おもしろくするの……」

「えへ」


 ちなみに今日、コトリンの彼氏は男友達と遊んでいるらしい。二人は「友情も大切に!」という約束をしているとのこと。

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