クラゲは空を泳ぐ
ちキ
6月1日
どうやったら空を泳げるんかな
ぼーっと流れる時間の今、自分は親友のナツキに質問した。
ナツキは体育座りしてた足を伸ばして、目の前の海に向かって走り出した。つられて自分もナツキについていく。
ナツキはつま先が海に濡れるか濡れないかの所で立ち止まり、「クラゲになればいいんだよ」と満足そうな笑みを浮かべてそう言った。
その当時は意味がわからなくて言葉ではナツキをバカにした。だけど心の中ではぼんやりだけどその意味がわかったと思う。
自分は女の子と話したことがなく、どんな会話をすればいいのかとか、どうすれば相手が機嫌を損ねないだろうか、とかずっと考えていたけどナツキも自分と似たようなタイプの人間のようだった。いつも変なことばかり話す。
「クラゲになるって転生でもすればいいの」
「重力が逆さになればいいのにな」
「何言ってんねん。阿呆やな、ナツキ」
「てめぇもアホやでうんこ太郎」
「誰がうんこじゃ女の子が汚い言葉をつかってはいけません」
「わかった、おうんこ太郎」
「やっぱ阿呆やな」
「阿呆」
「アホ」
これでも、自分はナツキの事がよくわかってなくて、一線引いてるつもりだった。
「なぁ、よく私ら付き合ってるって言われるやんか学校で。おうんこ太郎も知ってるやろ?」
「おうんこ太郎は知らんけど聞いたことはあるよ」
ナツキはしゃがんで、足元に浮かんでいた生きてるか死んでるかわからない小さなクラゲを手ですくい上げると、「これ私」と言いながら自分へ嬉しそうに見せてきた。
「それがナツキなん」
「そうや」
「生きてるか死んでるかわからんやん」
自分がナツキの手の中に包まれたクラゲを指でつんつんしていると、「その指があんた」と言った。今度は声に冷たさがあった。
「当たり前や」だんだん疲れてげんなりしてきた自分は、てきとうに言葉を返し、帰ろーとナツキに言葉を投げかけた。
ナツキは、「いややめんどくさい」とその場を動かずに言った。自分はいつものいじって欲しくて冗談言ってるんやわぐらいにしか思ってなかったから、ナツキに先帰っとくって言ってからその場を立ち去ろうとした。
「待って、最後に質問していい?」
「なんや」
明日も学校で会うのに最後って言われるのは、心留るが、そのまま聞き続けた。
「同い歳でさ、何ヶ国語も喋れたりIQ高かったり世界中に名前が知れ渡ってる人おるやん」
「おん」
「その人と私の違いってなに?」
ナツキは真剣な表情で自分の顔を覗き込んでいる。そんな事知らんって言いたくなったが、ナツキの手のひらに収まってるクラゲをみてると真剣に答えた方がいいかなって喉の奥が揺れたから自分なりにしばらく沈黙して真面目に考えた。そして出た答え。
「そんな事知らん」
「そっか〜」
ナツキはポーカーフェイスでクラゲを見つめている。気味悪くなって、このまま彼女の時間だけ止まってしまいそうで、自分は焦る。
「けど人って平等やん、喜怒哀楽とか感じれる感情は。だから、だから、」
胸になにかが詰まるような感覚がして、喉を言葉が通らない。
「だから?」
「阿呆のままでええ、だから明日も学校こいよ」
その時の自分の顔がおかしかったのか、ナツキはクラゲをビチャっと浅い海の中に落とし、ニカッと歯を出し笑い続けた。自分が止めないとずっと笑ってたと思うくらい変な笑いだった。痙攣したような笑い。
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