6月2日
学校で適職検査のアンケートをとっているとき、何となく自分は後ろの席にいるナツキが気になって声をかけた。
「ナツキは将来の夢とかあるん?」
「うーん、クラゲになりたい」
「昨日も似たようなこと言ってたなぁ」
「そうやったっけ、記憶ないわ〜」
「自分のことも忘れた?」
「おうんこ様やろ?覚えてるで」
「お口にチャックしとき」
ナツキは口にチャックをする仕草をした、桜色の健康そうな唇は自然な艶が出ていて魅力の塊だ。凝視してしまっていたのかもしれない、ナツキの隣の席に座ってる中本、通称なかやん、にイチャイチャすな、と野次を飛ばされた。自分はなかやんのクセに文句言うなと指でブーイングマークをつくってなかやんの目の前に突き立てた。
「ほんま仲良いなぁうんこ同士」ナツキが嘲笑うので、「誰がやねん!」と言ったら、なかやんも同じ事を言ったせいで余計ナツキにバカにされた。
学校の帰り、自分はなかやんと自転車でどっちが早く海につけるか競走して脳に酸素がまわらなくなるくらい本気で漕いだ。僅差で自分の勝ちと強引に言いはったが明らかに自分の方がおそかった。なかやんはヒョロヒョロに見えるが男子百メートル全国トップレベルの人物だから、筋肉が凄かった。
「お前は脳筋やから遅いねん」
「俺の方が早かったしな!後でアイス奢りな」
「まぁ、しゃーなしな」
実際はしゃーなしではないのだが、なかやんにはそういうこと言ってもいいと思う。自転車を止めて砂浜でお宝探しする事にした。外国みたいに一発逆転みたく金持ちにはなれないだろうが、それはそれで趣がある気がした。
なかやんが突然、「なんや!?これ」と大声で叫ぶので急いで駆けつけてみると、砂にまみれたクソを珍しいお宝を見つけた時のように丁寧に手のひらにのせるなかやんが居た。
「見てみ、なんか新しい生き物ちゃうんこれ!」
自信満々に砂にまみれたクソを自慢してくるなかやんに耐えられなくなって、砂浜に笑いながら倒れ込んでしまった。
「ちょ、お前腹痛いって!笑かすなよ」
「はぁ!?何がやねん」
「そ、それ砂浜まみれたクソやで!さすが脳筋」
女子がよく出すキンキン声を出しながらうぉ!!と驚いたなかやんは、クソを空中に舞いあげた。「アブね!」もう少し反応が遅く立ち上がらなかったらなかやんの宝物が自分の上に乗るとこで、これ程動体視力に感謝したことはないと身震いさせた。
「やめろや!なかやんのクセに」
「なかやんのクセにってなんやねん」
「なかやん=脳筋」
「俺は脳筋じゃないしなー中間テスト480やったしー」
なかやんのクセに、テストの点数自慢してくるのはとてもウザイ。自分は砂まみれのクソとなかやんの480点の自慢を聞いて昨日ナツキが言ってた事をハッと思い出した。
「なぁなかやん、なんでお前は足速くて勉強出来るん?完璧に近いやん」
「いきなりなんや、アイス奢りは消えへんで」
「いやガチめに」
自分はなかやんの茶色い瞳を見た、人と目を合わせるのは苦手だがこっちの方が心からの質問っていうのが伝わるかと思ったから。だけどいきなりこんな事聞くっておかしいかな、ナツキのクセが移ったのかも。
「勉強はなぁ、俺塾行ってないけど脳の仕組みから調べて毎日やってる。足速いのは親の遺伝と昔から習い事沢山やらせてもらってたからかな」
なかやんは目を逸らして、さっきのクソを砂浜の中に埋めながら呟く。自分もクソを埋めるのを手伝う。
「なかやんは将来のことどう思う?」
「俺は大学行って親に恩返しするつもりやで」
「その後は?」
「働いて職場結婚して子供二人欲しいかな」
「結構普通やね」
「なんや、なんか文句あるんか」クソを埋め終わったなかやんが、ニヤつきながら言った。なんもなーい!とダッシュで自分の自転車まで走るとやっぱり後ろから高速でなかやんが追いついてきていつの間にか先を越されていた。アイスを奢るのは自分のようだ。
小さい駄菓子屋につくと、自分は熱中症みたいになっててフラフラしてたのでおばさんが中で涼ませてくれた。さっさとなかやんのアイス買って、レジの奥にある和室に入った。
「騒がしいとおもったらおうんこ太郎様やん」
「おう、ちょい休ませて」
視界が滲んでナツキ独特のボケに突っ込む気にもなれず、自分は座布団の上に頭をのせようとした。すると、間違えたのかナツキの膝の上に頭を乗せてしまった。
自分は動く気力も焦る気力もなくダラっとそのまま乗っかった。その時のナツキには悪いことをしたから後で謝ればいいだろうって言う感覚だったので自分の事しか考えてなかった。ナツキは何も言わず、自分にうちわの風を送ってくれた。そうだ、ナツキになかやんが言ってた事を話してやろうと思い、重たい口を開く。
「自分聞いたんや……人より凄い所ある人間も案外普通やったで、だからナツキは明日も俺に顔見せてくれたらいい……それでいいねん、ワシに会いに来て……」
「何言ってんねんアホ……」
自分でも何言ってんねんって心のなかで突っ込んでしまいそうだったけど、まぁいいかと割り切った。さっきからずっと無言で、うちわの風を送ってくれてたナツキの手が止まった。目を腕でおおっていた自分だったが、ナツキの事が気になったので腕を少しどけて彼女の顔を見た。
熱中症の自分より赤面で唇を固く結び、うちわを持つ方の手で顔を隠していた。
「……」
正直、可愛い。だけどこんなところで!こんな状態でどうしろって言うんだよ神様。
「ちょっと御手洗!借ります!!」自分は大声で隣の部屋にいるおばさんに叫ぶと、ダッシュでトイレに駆け込んだ。
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