身体を失った俺たちは運良く異世界転移で助かったが、俺の職業が『コレクター』って何?

蒼い空

プロローグ

とある世界に大賢者と呼ばれた男がいた。

彼の住む世界は、魔物や魔法が存在するファンタジーの世界だった。

彼の父は勇者召喚で地球の日本という国から転移した異世界人であった。

母はエルフの国の長老の孫娘。

よって、彼は異世界人とエルフの間に産まれたハーフエルフである。

彼は父の成長促進というチートスキルと母の膨大な魔力を受け継いだ。

努力家の父の教えで日々鍛錬し、スキル成長促進のおかげもあって全魔法を極めることができた。

そして、魔王と肩を並べるほどの膨大な魔力を得た。

しかし、彼は魔物を従えることも、世界を手に入れることにも全く興味が無かった。

それよりも父から聞かされていた異世界の日本に憧れを抱いていた。

日本には魔物がおらず、魔法も無いそうだ。

魔法が無い代わりに科学によって発展しているらしい。

それに、様々な娯楽があり、何より飯がうまいと聞く。


「いつか日本に行ってみたい!」


これが彼の夢である。

父が召喚された魔法陣は一方通行で向こうへ行くことはできないそうだ。

そのため、父は魔王を倒しても日本に帰ることができなかった。

彼はハーフエルフのため、ヒューマンの10倍以上の寿命がある。

魔法陣の研究をするには十分な時間であった。


数百年の時を経て、遂に彼は日本への転移魔法陣の開発に成功した。

父を召喚した時には数十人の魔法使いの魔力を必要としたらしい。

しかし、彼の魔力であれば彼一人でも十分であった。

何百年も苦労し辿り着いた転移魔法陣の中央で彼は精神を統一した。

数秒後、魔法陣からの眩い光に包まれ彼は旅立った。



目覚めた彼は周囲を確認した。

少し薄暗く夕方のようだ。

周囲には見たことの無い見上げるほどの高い建物。

馬がいないのに動いて人を運んでいる箱型の車?

騒音と咽るようなにおい。

ここは確かに今まで暮らしていた世界とは全く異なる。

そう! 異世界だ。

彼は異世界転移に成功したことを実感し喜んだ。


「君! 大丈夫なのか?」


言葉が分かる。

向こうの世界で得たスキル『翻訳』が機能しているようだ。

どうやら俺は歩道で倒れていたらしい。


「大丈夫です。ところでここはどこですか? 日本ですか?」


「えっ? ここは日本であっているが、本当に大丈夫か?」


良し! 転移先もバッチリ合っていたようだ。

その後、救急車で運ばれ病院で精密検査を受けたが特に異常はなかった。

父のおかげか、身体は地球人と同じのようだ。

異世界人とバレずに済んで良かった。

美形の母似でなかったことを恨んだこともあったが、今は父似で良かったと思う。

現状、戸籍も無く住所不定の無職の状態なので記憶喪失を装うことにした。

父の名だけは覚えていたことにして警察に伝えると父の実家を特定してくれた。

今日は入院して良いとのことなので、もう暗いし観光は明日にしようと思う。

まずは父の実家に行ってみよう。

父から両親に向こうの世界で幸せに暮らしていたと伝えてくれと言われていたのだ。

しかし、父が亡くなってから数百年が経っている。

父の名前から実家が特定できたということは向こうと時間の流れが異なるのだろうか。

もしかすると祖父母に会えるかもしれないぞ。

まずは自分のステータスの確認をしておこう。


*ステータス

 名前: ツバサ(青井 翼)

 称号: 大賢者、ハーフエルフ(青井健太とミレーの息子)

     スキルを極めし者、魔法を極めし者

     世界を越えし者

 職業: 無職

 性別: 男

 年齢: 623歳

 レベル: 999


 HP: 10000/10000

 MP: 50000/1000000

 STR: 50000

 INT: ∞

 DEF: 100000

 AGI: 100000

 DEX: 100000

 Luck: 500


 スキル

  全魔法、全スキル


 ユニークスキル

  成長促進


転移にMPをかなり消耗してしまった。

向こうに戻る時には全回復しておかないとまずいな。


翌朝、父の実家に向かった。

入院費は父からもらっていたこちらのお金があったので何とかなった。

昨日は暗くてよくわからなかったが、見たこともないものばかりの街並みに興奮した。


「これが夢にまでみていた日本か。父さんが言っていた通りだ。」


そういえば、父さんが日本には魔法が無いって言ってたな。


「クリーン!」


昨日、風呂に入って無かったのでスッキリした。

あれ? 魔法が使えるぞ?

ステータスを確認してみた。

あれ? ステータスが確認できるのもおかしいのか?

それより重大なことに気付いた。

一晩寝てもMPが全く回復していない。

MPを消費し魔法は使えるが回復しない。

回復手段が無い現状、帰れなくなった事実に気付いたのだ。

落胆したが、それ以上にこの世界を知りたいという欲求の方が勝った。

当面は、父の実家に面倒みてもらおう。

実家に着くと初老の女性が居た。

父の両親はすでに他界しており、実家には父の妹が暮らしていた。


「初めまして。青井健太の息子の青井翼と申します。」


「え? 兄さんに息子が居たの? 隠し子ってこと?」


「異国で暮らしていたため、こちらに来るのは初めてなのです。」


「そうなのね。ところで兄さんは元気なの?」


「いえ、亡くなりました。」


「そう。兄は80になるはずだから諦めてはいたのよ。でも、兄は最後の肉親だからもしかしたらと思ったのだけれど。兄が失踪してからもう60年になるから仕方ないわね。あなたは兄の忘れ形見だわ。兄の若いときにそっくりよ。でも、兄さんも頑張ったわね。こんなに若い息子がいるなんて。うふふ。」


「それで申し訳ないのですが、私には戸籍が無いのです。身元引受人になってもらえませんか?」


「詳しいことは聴かないわ。兄さんにも事情があったのでしょう。あなたは私の甥になるのだから今日からここはあなたの家でもあるのよ。遠慮しないでちょうだい。」


「信じてもらえるのですね。ありがとうございます。」


「信じるも何も兄さんの若いころにそっくりだもの。息子に間違いないわ。」


それから父の妹の幸恵さんとの生活が始まった。

日本のことや父の昔話を聞いた。

それに何より幸恵の料理がうまい!

元の世界には当分戻れそうに無いが、幸恵との生活は楽しかった。

帰還を諦めたツバサは猛勉強し、この世界の知識を習得した。

幸恵の好意でツバサは大検を取得し、大学へ入学。

そして、ある研究機関に就職した。


それから5年。

彼は遂に魔力を得る方法を見つけた。

彼は原子力発電所から排出される廃棄燃料の放射能を無害化する研究を任されていた。

彼は置換というスキルを使い、高エネルギーの放射能を利用して魔力に置換することができたのだ。

現状、魔力を吸収し使えるのは彼だけなのだが、次世代に任せなければならなかった負の遺産の放射性廃棄物が彼の手に掛かれば短期間で無害化できる。

それに政府が食いつき、膨大な研究費が投入された。

そんなある日、スキル予知が発動した。


「なんだと!! 地球滅亡?!」


原因は不明。時期も不明。

しかし、確実に地球が滅亡の危機に襲われるであろう。

まだ魔力が半分程度しか回復していないが、時空間魔法で空間を作ることはできる。

元世界への帰還までの一時避難には使えるであろう。

但し、その際には世話になっている幸恵も連れて行きたい。

しかし、今の魔力では自分以外を移動させて空間を維持することが難しい。

肉体を残し、精神のみを移動させることが精一杯だった。

そこでこの空間の研究を続けるために、この空間はバーチャルリアリティの世界で、より現実に近いものだと公表した。

さらに政府から研究費が投入されたのだった。

政府としては彼が気持ちよく研究を進め、効率的に放射性廃棄物を処理してくれればそれで良い。

悩みの種だった原子力発電所から溢れ出す廃棄物が目の前から消えてくれるだけで十分だった。

どんな原理で放射能を無害化したり、別の世界を作り出しているのかはあえて聞かない。

煙たがられて彼を失うことの方が問題だからだ。

結果さえ出してくれればそれで良い。


その後、当時開発が進んでいたバーチャルリアリティを利用したMMORPGのゲームの世界と彼の作り出した異空間が融合し、安定した新たな世界を作り出すことに成功した。

だが、まだ肉体の移動は不可能だった。

その世界のテストを兼ねて、田舎の某県立高校の通信課が選ばれた。


それから数か月、高校生たちのシミュレーション結果を参考にし、彼の作り出した異空間の世界が完成した。

魔素を魔石として蓄積させる技術も確立できた。

さらに魔素増幅装置も完成した。

これでMPを最大まで溜め、元の世界に帰れる日も近いだろう。

そんなある日、再び彼の予知が発動した。


「時間が無い。すぐに幸恵さんと非難しなければ!」


研究所から急いで帰宅し、幸恵さんを説得した。


「よくわからないけど翼を信じるよ。もうこのまま人生を終えても良いのだけど、翼を残してはいけないからね。着いていくよ。」


翼と幸恵は、完成した異空間の世界へ旅立った。

彼らが元世界に無事に戻れたのかはまた別のお話である。


それから数日後、突然彼の予知が現実のものとなってしまった。

原因不明の地球の爆発。

一瞬にして地球は宇宙の塵となった。

生存者?は、彼が作った異空間に居た生徒たちのみ。

但し、精神のみが彼の作り出した空間に閉じ込められただけである。

ここから残された生徒たちの新たな人生が始まるのであった。

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