恋する運命

黒百合咲夜

柊百合の運命

 私は、同じ学校の後輩に恋をしている。名前は小百合ちゃん。まるで天使かと思うほどに美しい彼女に心奪われた。

 でも、話したこともないし向こうも多分私のことなんて知らないんだろうけどね。言うなれば、完全に私の片想いというわけだ。

 それでもいい。遠くから彼女を見つめているだけでも私は幸せだった。まぁ、こっそりと写真は撮らせてもらっているけど。

 放課後、誰もいない教室でプリントアウトする写真を選ぶ。それが、ここ最近の私の日課かな? 今日も可愛い小百合ちゃんの写真を厳選する。


「むふふ……今日は水泳の授業があったからお宝写真。濡れた髪とスク水の小百合ちゃん可愛いよ……♥」


 なんて、画面に集中していたから、気づけなかったんだろうね。目の前に人が立ったことも、それが私の想い人だったことも。


「せーんぱいっ。それ、私ですよね?」

「へ?」


 見上げれば、小百合ちゃんがジッと私のことを見ていた。びっくりしちゃって、手に持っていたスマホを床にぶん投げてしまう。

 小百合ちゃんが、私のスマホを拾い上げる。画面を見られて、クスクスと笑われた。悲しい、辛い。人生終わった……。


「うわー、全部私の写真だぁ。うわっ、休みの日の写真まである!」

「見ないでー!!」

「ふふっ、ねえ先輩。先輩が後輩の女の子をストーキングしてたなんて知ったら、どうなるでしょうね?」


 そんなの、目に見えている。生徒指導室に呼び出されて鬼教師にこってりしぼられ、次の日からは地獄のボッチorいじめられ生活の幕開けだ。人生完全に詰み。


「け、消すから言わないで……お願い……何でもするから……」

「今、何でもって言いました? じゃあ、先輩にお願いしようかな~?」


 あ、しまった! なんでもなんてきっととんでもない要求を……!


「先輩、私と付き合ってください」


 ……へ? 今、なんて?


「どういうこと?」

「私と付き合ってほしいんです」

「相手はストーカーだよ?」

「先輩がそれ言っちゃいます? こんなに私を愛してくれている人と付き合ってみたいじゃないですか~。愛するより愛されたいっ!」

「天使ぃ……ストーカー被害に遭わないように守ってあげないと……」

「ストーカーにストーカーから守られるなんて初体験だなぁ……」


 小百合ちゃんが私にスマホを返してくれた。そして、顔を覗き込んでくるんだけど、近い! 吐息がすぐそこに感じられて心臓破裂しそう!


「先輩は、お名前なんて言うんですか?」

「え、あ、百合。柊百合」

「ふーん。じゃ、百合先輩っ」


 ……誰か、救急車を呼んでくだ……ごふっ。


◆◆◆◆◆


 あの後、マジで倒れた私は今、なぜか小百合ちゃんと一緒に下校している。しかも、なぜか腕を組んで帰っているのだ。


「そうだ。百合先輩、少し公園に寄りませんか?」

「公園? どうして?」

「百合先輩と一緒に行くデートの場所を決めたくて」

「デッ!?」


 驚いた。まさか、デートまで考えていてくれたとはもう感動で泣きそう。いや、多分もう泣いちゃってるけど。

 二人で近場の公園まで移動し、ベンチに座る。小百合ちゃんがホイホイとスマホを操作し、映画館のホームページにアクセスした。


「先輩、映画とかどうですか?」

「映画? 私、結構マニアックなの好きで……」

「これなんてどうでしょう? 『君の心臓を食べたい』」

「うそ! 小百合ちゃんもそれ好きなの!? 実は、私も好きなんだ」

「本当ですか!? あ、でも人気ですからねこれ。チケット取れなかったら……あ、『ダイナソーワールド』の最新作公開してる」

「『ダイナソーワールド』も好きなの!? 私もこのシリーズ大好き!」

「先輩もですか? 実は、一人で行こうか迷ってたんですよ」

「好きなものが一緒なんて嬉しい! 絶対行くよ!」


 小百合ちゃんと好きな映画が一緒。神様、私、今日で死ぬのでしょうか? 嬉しいことの連続で心臓が保ちそうにありません。

 にやける顔で小百合ちゃんの横顔を眺める。


「それと、映画が終わったらここの店でパフェとかどうでしょう?」

「この店も? 私もここのパフェ大好き!」

「ええ!? じゃあ、こっちの店のオレンジジュースは……」

「私の大好物だよ! すごいね、こんなにも好きなものが同じだなんて」

「ほんと、驚きました」

「これって、運命かもね。なんちゃって」


 いや、キモいキモい! ストーカーしてた女から運命とか言われたら気持ち悪いよ! 何言っちゃってるの私! せっかくいい雰囲気なのに自分から空気を壊すな!

 手に暖かい感触。見ると、小百合ちゃんが手を握ってくれた。


「先輩、キスしてもいいですか?」

「キッ、キスはダメッ!!」

「どうして? なんですよね?」


 悪戯っぽく笑われてはどうしようもない。そっと彼女に顔を差し出す。


「は、はい……」

「はい、いただきます」


 唇が重なった。柔らかくて優しい香りに包まれていく……。

 あぁ、これが、運命なのかな? だとしたら、最高に幸せだなぁ。

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