第3話 冷酷!悪役の最推し!〜それでも戦うより抱き合いたい!〜

 ――、こんにちは~!私、星見台あかり!中学二年生!

 マジカル・ポラリスに変身して、あおいちゃんことマジカル・シリウスと、ことねちゃんことマジカル・ベガと一緒に、星の戦士『マジカル☆ステラ』として、この世界をサイヤクダーから守っています!

 悪い人たちには、『ポラリス・パンチ』!

 みんなぁ!今日も、私たち、『マジカル☆ステラ』の応援を、よろしくね!


 ……、以上、テレビアニメ『マジカル☆ステラ』の、オープニング前のナレーションである。

 おわかり、頂けただろうか。

 とっても致命的な事実に。



「捕まえた!シリウス!」


 マジカル・ベガが、元ネタであるハープの弦を象った『ベガ・ストリング』で、敵の量産型魔獣・サイヤクダーを拘束。


「いっくよー!『シリウス・シュート』!」


 マジカル・シリウスが、蒼い稲妻をまとったエネルギー弾を撃ち出す。エネルギー弾は途中で元ネタである大きな犬の形に変化してサイヤクダーを呑み込み、派手な爆発が起こった。

 さて。問題は、ここからだ。


「行っちゃえ!ポラリス!」

「決めてくれ!ポラリス!」

「う、うん!」


 ――、残すは、サイヤクダーを率いてきた、メテオくんのみ。


「ぽ、ポラリス――」


 右手が熱くなる。ピンクの光をまとって、それこそ彗星のように、勢いよく相手を殴り付ける技。

 アニメでは、前半クールのポラリスの必殺技である。


「くっ……!ポラリス……!」


 目の前には、唇を噛み締める、メテオくんの顔。

 ――、おわかり、頂けただろうか。


「ダメェ!やっぱ無理!推しを殴るなんて絶対に無理ィ!」


 そう。ポラリスの必殺技は、『ポラリス・パンチ』一択なのだ。


「バカ、抱き着くな!アホかお前は!ちゃんと殴れ!」

「無理だよ私はメテオくんのファンだもん!」

「ええい!離れろ!」


 この前のように突き飛ばされる。

 痛くはない。痛くはないのだが、心が痛い。

 だって、殴れるわけないじゃないか。

 私の、最推しを。


「この前は焦ったが、今日は違うぞ!お前を、確実に仕留めてやる!」


 メテオくんが手を銃の形にして、指先をこちらに向ける。

 その先端に、暗黒のエネルギーが集まり始めた。


「当たれ!『ダークスナイプ』!」

「危ない、ポラリス!」


 シリウスに後ろから抱き抱えられ、後ろに飛んだ。

 と同時に、先程まで私がへたり込んでいた場所が暗黒のエネルギー弾で吹き飛び、クレーターが出来た。


「ご、ごめん……。シリウス……」

「だから言ったじゃん!あんな奴やめなよ!あいつはあんたのことなんて、なんとも思っちゃいないよ!」

「そう、なんだけど……」


 ほう、と溜め息を吐く。


「…………、やっぱり、メテオくんはカッコいいなぁ……」


 ――、最推しに狙い撃ちされるとか、我々の業界ではご褒美だ。


「ポラリスの馬鹿!あんた、命狙われてるんだよ!?下手したら死んじゃうんだよ!?」

「うん、そうなんだけど……」

「『そうなんだけど』、じゃない!」


 シリウス――、あおいちゃんに、正面から両肩を掴まれて、揺さぶられる。


「友達が……、あかりが死ぬのなんて、あたしは嫌だよ……!」


 くしゃりと顔が歪んで、マリンブルーの瞳が潤んで、ぼろぼろと涙が零れた。

 ぎゅっと抱き締められて、わんわん泣かれる。

 ……、これは困った。

 メテオくんは殴りたくない。

 だけど、あおいちゃんを悲しませたくもない。

 私は、確かにこの前、前世の記憶を思い出したけど、それまではずっと、正真正銘、等身大の『星見台あかり』として、『星波あおい』と幼馴染だったんだから。


「別れは惜しんだか?なら――」


 メテオくんは、悪役らしく、もう一度、私に指先を向けてくる。


「させるか!『ベガ・ストリングス』!」


 普段は明るいムードメーカーなことねちゃんが、大声を上げて黄金の弦を発動させ、メテオくんを拘束する。


「空気を、読めぇぇえええ!!!!」

「ぎゃあああああああ!!!!」


 そのままぐるぐるとぶん回し、メテオくんをものすごい高さから地面にぶつけ始めた。

 

「おわぁぁぁ!ことねちゃぁぁあん!メテオくんが死んじゃうよ!」

「ポラリスは黙ってて!」

「……、ご、ごめん!」


 本当にそうだ。私の行動で、あおいちゃんを悲しませて、ことねちゃんを怒らせて、メテオくんがボコボコにされている。

 ハッキリ言って、地獄絵図だ。


「私は、戦うより、抱き合いたいんだけどなぁ……」


 握り拳を開く。

 その瞬間。


「えっ!?」


 まばゆい光が、私の手のひらから溢れ出る。

 いや、手のひらだけじゃない。

 私の全身が、発光している。

 私に抱きついていたあおいちゃんも、目を見張っている。


 全身が、あたたかい。

 どうすればいいか、徐々にわかってくる。

 ――、あぁ、殴らなくても、いいのか。


「もう大丈夫だよ」


 私は、あおいちゃんから静かに離れて、立ち上がる。


「殴らなくても、良くなったから」


 あおいちゃんに微笑んでから、ことねちゃんに叩きつけられているメテオくんを見据える。


「おらぁ!」

「あっ……!しまった……!」


 『ベガ・ストリングス』を破り、メテオくんはまっすぐこちらに向かってくる。


「これで終わりだ!ポラリス!」


 深呼吸をして、頭の中の言葉とイメージを反芻する。

 よし、やるぞ。

 アニメにも出て来ない、私の技を。

 メテオくんへの、愛を。


「『ラブ・ロックオン』!」


 両手でハートを作って、覗き込む。

 目指すは、こちらに突っ込んでくる、メテオくん。


「『あなたへのラブ!全開で行くよ!ポラリス・ホールド』!」


 大きく手を拡げて、迎え入れる。

 愛の大きさを示すように。


「うっ……そだろ……!」


 抵抗するメテオくんも、なんのその。

 何も出来ずに吸い込まれてきたメテオくんを、ぎゅっと抱き締める。


「はぁ~……幸せぇ~……」


 ピンク色の光が弾けて、私達を包み込んだ。


「くっ……!クソっ!な、なんか変な感じするぞ!?どうなってんだこれ!」


 ……どうやら、この技は、メテオくんのエネルギーをごっそり奪うらしい。

 技が切れた私の腕から逃れたものの、その足取りはかなりおぼつかない。


「お、おお覚えてろよ!マジカル・ポラリス!」


 メテオくんは、裏返った声で捨て台詞を吐いて、ワープホールに逃げていった。


「で、できた……!」


 台詞とポーズが恥ずかしかったけれど、なんとか技を成功させることが出来た。

 これをアニメでやっていたら……、色々と、大騒ぎになっていたかもしれない。主に、大きなお友達が。


「あかり!」

「あかりん!」


 変身が解けた二人が、私に抱きついてきた。

 私も、そんな二人を固く抱きしめる。

 『マジカル☆ステラ』のヲタクとしても、友達としても、とっても嬉しいぬくもりだ。


「二人とも、本当にごめんね。でも、もう大丈夫だから」

「怖かったよ、あかりのバカ!」

「ハグでメテオリトをこらしめるなんて、すごいじゃん!」」


 あおいちゃんのお叱りとことねちゃんのお褒めが心に染みる。

 二人には、本当に心配と迷惑をかけてしまった。


「ありがとう。これからも、よろしくね?」


 だけど、これからは、メテオくんを殴らずに戦っていける上に、彼を抱き締め放題だ。


「……、にへへっ」


 メテオくんの抱き心地を思い出して、待ち遠しくて仕方なくなってきた。

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