屑拾いに転生した少女は、ロボットの為に過酷な異世界を生き抜くようです

kahn

ロボット好きな少女、転生する

「異世界転生…する…?」


そう突然告げてきたのは、身の丈以上もの白髪を伸ばした金色の瞳を持つ少女だった。

その不思議な少女に相対する黒髪の少女は突然の出来事にあっけらかんとしている。


「えぇと…異世界転生ってあの小説や漫画でよくあるあの異世界転生?」


「あなたの魂…あなたの居た世界とは違う世界に生まれ変わらせる…あなたの言っている異世界転生、それと同じかわからないけど…」


白髪の少女は口下手ながらも、ちゃんと説明しようとする。


「意味が分からない…というか元の世界で私どうなったの!?」


「元の世界であなた………死んでしまった」


「えっ」


「覚えて…ないの?」


黒髪の少女は現実を受け入れられないのか、石像のように固まっていた。


「無理に思い出さないで…きっと辛い…」


「そんな…」


少し思考が戻ってきたのか、黒髪の少女は周囲を確認し始める。

現在自分の居る空間は、自分と目の前の少女以外何も、塵一つ存在しない限りなく無に近い空間だった。

現実離れしたこの空間に自身が居るという事実に、否応なしに自分がまともな状態ではない事を理解する。


やっぱり自分は死んでしまったのか。


そう思うと途端に家族の顔が頭に浮かんでくる。


「お父さん…お母さん…お兄ちゃん…!」


自身の目から涙が溢れてくるのを感じる。


もう会えないんだ、その事実にただ泣く事しかできなかった。


「あ…ご…ごめんなさい…」


白髪の少女はどうすればいいのか分からず、困惑していた。

彼女には目の前の少女が泣き止むまで見守る事しかできなかった。






~~~






「落ち…着いた?」


「うん…」


黒髪の少女が落ち着いたのを確認すると、白髪の少女は自己紹介を始めた。


「私…トゥクス…あなたたちの言う所の…天使」


「天使…?」


「厳密には…違う…でもそれが多分…近い」


「じゃあ貴女は私を天国に連れてくの? それとも地獄?」


「異世界転生…さっきも言った…」


「そうだった…ごめん」


「大丈夫…ちゃんと説明…する」


トゥクスが言うには、何も成せずに若くして亡くなった人物の魂の元に自分のような天使が派遣されるという。

そして、その魂に新たな人生で活躍できるチャンスを与える為に、元の記憶を保ったまま異世界転生させる権利が与えられるのだという。


「そして私に異世界転生の権利が与えられたわけね」


「そういう…こと」


続けてトゥクスは言う。


「転生する時…ひとつだけ…特典をあげる」


「特典?」


「うん…からだが強くなったり…持ち物を無制限に持てたり…イメージしたものを作り出せたり…そういった力をひとつだけ…与えるの」


「どれも魅力的だね」


「この本を…みて」


トゥクスは一冊の本を手元に呼び出した。


「この本に…特典全て…載っている」


「要するにカタログね、分かったよ」


少女はトゥクスから手渡された本をめくる。


「『ノーブルブラッド』恵まれた血筋の家系に転生する…これは出自が恵まれているだけ?」


「生まれがいい事…大きなメリットになる」

「貧しい生まれだと…お金がないから何もできずに人生を終える」

「悪い人と同じ生まれだと…その人と一緒に迫害されたり…最悪殺される…」

「だから生まれを選べるのは…大きなメリットになる」


「そうなんだ…たしかにそうだね…」


少女は苦笑いを浮かべ、ページをめくる。


「『オーバードフロー』強大な力をその身に宿す…これなんか強そう!」


「それは…ちょっとどうなるか…分からない」


「どう言う事?」


「ヒトは自分と違う存在を恐れたり…好奇心の為に色々と酷い事をする…」

「だから強い力を秘めた状態で転生…迫害される可能性…ある」

「もしかしたら…何かの実験台にされる…かも…」


「それは怖いね…これは辞めとこうか…」

「じゃあこれは!『ホミィ・グレートアームズ』強力な武具が身近にある状態で転生する!」


「それも…オススメ…しない。 その武具に見合った…レベルまで成長するまで…時間かかる…」

「それに…万が一盗まれたら…とても…大変…」


「じゃあ、これはッ!?」


「それも…」


こんなやり取りを何回も繰り返す事、約1時間後。


「どの特典も一長一短で選ぶの難しいよ~!」


「いっぱい…悩んだ方がいい…あなたの新しい人生に…ずっと関わる事だから…」


「そうだねぇ…やっぱり身体能力強化か無限収納が無難かな~?」


「…あなたは何か…好きな物…ある?」


「好きな物…?」


「元の人生で…好きだった物…あなたの趣味…あなたの生きがい…何か…無い?」


「趣味…生きがいかぁ~」


考えたことが無かった。

父はゲームが好きで、母は絵を描くのが好き、そしてオタク趣味の兄。

家族はみんな好きな物があったが自分はそういうのをまだ見つけていなかった。

ただ学校で友達と他愛のない話をしたり、家族とのんびり過ごしているだけでも楽しかったから自分自身の趣味を気にした事が無かったのだ。


「私って今思えばつまらない人間だねぇ…」


自虐的に自分の事を笑うと、トゥクスは首を傾げた。


「あなたにも…好きな物は…あるよ…?」


トゥクスがそう言うと、突如無の空間が歪み、見慣れた風景へと変化していく。


「ここは…私の部屋?」


自分にとっては日常を共にした馴染みの部屋だが、もうここに帰れないと思うと寂しさが込み上げてくる。


「ここは…あなたの記憶から…再現した…偽りの空間…」


トゥクスはベッドに置いてあったぬいぐるみを手に取る。


「あなたの好きな物…きっと…これ…」


トゥクスが持ってきたのは、独特なデザインの多脚ロボットを模したぬいぐるみだった。


「懐かしいなぁ、そのぬいぐるみ…アニメでその姿にキュンってきて、それでクリスマスプレゼントにお願いして、家族から貰ったんだよね」


ベッドの方を見つめると、他にも独特なデザインのロボットを模した人形やぬいぐるみが置かれていた。


「そうだ、私ロボットが好きだったんだ」


「ろぼっと…それがあなたの…好きな物…?」


「うん、それでお兄ちゃんがロボット物の沼に私を引きずり込もうとしたんだけれども…」

「確かにロボットアニメに出てくるロボットはカッコイイけど、私が求めているロボットとは方向性がちがうんだよねぇ…」

「なんというか…ビジュアル系というよりも、身近にいてくれそうで愛嬌のある感じというか…なんて説明すればいいか分からないや」


トゥクスに色んなことを話していると、色んな思い出が込み上げてくる。


「曖昧だけど、夢は一応あったんだ」

「ロボット関係の仕事について、ロボットといっぱい触れ合う…それが昔の私の夢…」

「まぁ、私はそれほど頭も良くないし、世間の世知辛さを知っていくうちにいつの間にかその夢は消えちゃったけどね…」


「じゃあ…新しい人生で…その夢…叶えてみる…?」


トゥクスは目の前に大きな球体を召喚した。


「これは?」


「あなたの…転生先の世界…それの縮図の模型…」


「これが私の新しい世界…」


球体の表面には地球と同じような青い海と緑の陸地が広がっていた。

だが、地形の形などは地球のそれと違う事から、自分の元居た世界とは違う星だと分かる。


「この世界は何て名前なの?」


「名前…ない…」


「無いの!?」


「あなたたち…自分の世界を…『地球』って…呼ばない」


「確かに…!」


「管理用の…IDはある…でもあなたたちは…発音できない…」


トゥクスは球体をくるくると回しながら説明を続ける。


「この世界…あなたたちの言う『魔法』『魔物』『冒険』…色々ある…でも刺激はあっても…安心はない…」

「この世界…色んな人たち…いっぱい争ってる…色んな所…荒廃している…」

「平和な世界で暮らしてた…あなたたちには…きっと辛い所…」

「だから…少しでも適応しやすいように…特典を渡すの…」


「そうなんだ…色々考えてくれているんだね、ありがとう」


「あ…どういたしまして…」


トゥクスは少し顔を逸らし、返事をすると説明を続けた。


「この世界…大昔…大きく発展した文明…あった…」

「でも大きな戦争…それでその文明は…滅んでしまった…」


トゥクスは世界の模型の一部分を拡大した。


「ここは…古代文明の都…その名残の場所…」


「辺り一面廃墟だらけだね…」


拡大された場所には、自分が見たことも無い不思議な建造物の残骸が広がっていた。

その瓦礫の上に何かが蠢いていた。


「…これは!?」


「これは…古代文明の遺物…それの一つ…」


瓦礫の上で蠢いていたのはロボットのような物だった。

四つの足に傘のような物を被った、鋼鉄の蟹と形容できそうな見た目をしている。


「…」


「主が居ない…なのにまだ動き続けている…哀れな遺物…」


「…かわいい」


「あの子達の事…気に入った…?」


「すごいよ! まさか私の好みにピッタリの子が異世界に居るなんて!」


「顔…近い…」


「ここに行けばあの子達に会えるんだね!」


「ここだけじゃない…古代の遺跡…色んな所…その中にいっぱい居る…」


「古代遺跡に行けば会えるんだね! 異世界生活が楽しみ!」


「でも…あの子達危険…侵入者を…排除しようとする…」


「そっかぁ…そうだよね…そう簡単には会えないよねぇ…」


「そのための…特典…」


トゥクスは特典の一覧が載っている本をめくり、とある項目のページを指した。


「この特典…どう…?」


「『サヴァントスコープ』? これは…!?」






~~~






「その特典で…本当に…大丈夫?」


「うん、きっと役に立つよ。色々ありがとうね」


世話になったトゥクスに別れを告げる…その前に聞きたいことがあった。


「ねぇ、元居た世界に転生しなおす事ってできるの?」


「できる…転生先で…いっぱい徳を積むと…元の世界に戻れる可能性…ある」

「でも…元の世界に戻っても…あなたの家族と友達が居るかは…わからない…」


元の世界に戻るころには、既に一つの人生を往生した後だから、元居た世界の家族や友人が生きている保証は無いのだ。

それを聞いて、絶望するかもしれないと思ったが、むしろ吹っ切れるきっかけができて良かったと思っている自分が居た。


「そっか…じゃあ改めて見ず知らずの私に色々世話を焼いてくれてありがとね」


「うん…あなたの新しい人生に…幸があらんことを…」


トゥクスに別れを告げた瞬間、自身の体が光り、温かい感覚に包まれる。

体が光の粒子になって徐々に消えていき、天に昇っていく。

そして、今までの人生の記憶が走馬灯のように映し出されていく。


(みんな…さようなら…)


誰も聞こえないのは分かっているが、今まで一緒に過ごしてきた家族や友人に対して別れの言葉を紡いだ。






~~~






「………」


転生者の少女を見送ったトゥクスは無の空間に佇んでいた。


「まだ居たんですか~? 先輩?」


突如トゥクス以外の声が響き渡る。


「…2492号…どうか…したの…?」


「相変わらず喋るのが遅いですね~先輩。 まぁ、先輩は旧式だから言語能力が劣っていても仕方ないですけどね~」


「ごめん…なさい…」


「それにしても先輩、毎回一人の転生者に対して時間を掛け過ぎなんですよ~」

「転生者なんて所詮は前世で何も成せずに死んだモブでしょ?」

「そんなモブなんか、適当に特典渡して、弱い下等生物しか居ない小さな世界で暴れさせとけばいいんですよ」

「どうせ、小さな世界だからどれだけ壊されても他の世界線に影響はないですしね」


「でも…彼等の人生に関わる事だから…ちゃんと説明…しておかないと…」


「だ~か~ら~! モブ相手にそこまで手間かける必要なんてないんですって!」

「所詮精神面もモブ相応なんですから、丁寧に説明するだけ無駄ですって!」


「…うん」


「アタシなんて昔丁寧に説明してやったら『いいから早くしろ』って急かされるんですよ!」

「だからテキトーにおだてて、テキトーに特典を渡してオシマイですよ。 どっかで野垂れ死んでもちゃんと説明聞かなかった奴等の自己責任ですからね」


突如現れた少女は露悪的に転生者の事をボロクソに叩く。


「2492号は…優しいんだね…」


「はぁ?」


「私の事…あなたなりに…気遣ってくれてる…」


「今の会話をどう受け取ったら気遣ってるなんて受け取れるんですか? 先輩の頭はお花畑なんですか?」


「あなたは優しいから…見送った人たちが…死んだり堕落していくのが…辛いんだよね…?」

「だから…できるだけ感情移入…しないようにしている…」


「…何勝手にアタシの思考を妄想してるんですか? キモイんですけど?」


「…私はまだ…耐えられた…あなたみたいに…感情…豊かじゃないから…」

「でもあなたは…違う…ずっと一人で…苦しんでた…」


「…」


「見送った人…死んでしまった…あなたはとても…悲しんだ…」

「見送った人…いっぱい人を殺した…あなたはとても…苦しんだ…」


「だから勝手にアタシの思考を妄想するな…」


「じゃあ…なんで私の前で…転生者の話を…するの…?」

「誰かに…それは違うって…言ってもらいたかった…」

「あなたは…」


パァン!


無の空間に音が響き渡る。

2492号と呼ばれた少女はトゥクスの頬を叩いた音だった。


「いい加減にしろ! 1376号!」

「さっきから根拠のない事を言いやがって! アンタにアタシの何が分かる!?」


「…」


「これだから旧式は…!」


2492号はトゥクスの居る空間から立ち去り、静寂だけが残された。


「どうして…あの子たちが…苦しまなくちゃいけないの…?」


その問いに答える者は、この空間には存在しなかった。






~~~






「…ん」


目を覚ますと見慣れた廃墟の天井が視界に入った。


「そっか…私転生したんだ…」


転生する直前の記憶が、頭の中に鮮明と残っている。

他人からすれば、夢の出来事だと思われるかもしれない。


「前世の記憶が突然蘇るのってこんな感じなんだね…変な感じ」


前世の生まれ変わりという実感があまり湧かなかった。

記憶が蘇ったからと言って、突如前世の記憶に支配されるというわけではないようだ。


「まぁ、悩んでても仕方ないかぁ」


布団代わりの布切れを片付け、廃墟の外に出る。


「さてと、今日も頑張りますかぁ!」


私はラッテ。

古代文明に触れる事を夢見る屑拾いだ。


いつかあの子達に会うために。

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