第5話

「平和なもんだな」


 呟きながら、ひとつひとつ、会社のデータをつぶしていく。

 わるい狐がいつ気づいて、いつ反撃してくるのか。どうせなら、殴り合いとかでいい。銃も持っていないので、本当に徒手空拳だけだった。


「死ぬだろうな」


 それでいい。

 かまわない。


「お」


 さっきの、備品整理の彼女についてのデータ。


「は?」


 詳細がない。データには、普通の人間としか書かれていない。気になってスキャンもかけたが、足跡も裏側も何もなかった。本当に、普通の人間、ということか。


「違うな」


 似たやつを知っている。


「存在が希薄なのか」


 たまにいる。人から認識されにくく、存在自体を忘れ去られる人間。その類いだろう。たまたま自分にはそれが見えた。多少の運命を感じるが、結局自分は死ぬ。

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