第2話 5月になって

 5月になり、入社して1ヶ月が経った。ゴールデンウィークなんて存在しないと言わんばかりの出勤体制だったがまぁこの仕事なら仕方ないし、給料もいいので何とか我慢した。




「どうだハルカ、仕事には慣れたか?」


 仕事が終わった後、先輩が私に男性としてはだいぶ低めの声をかけてくる。


「あ、先輩。おかげさまで大体の動きは把握できるようになりました」


「そうか、お前は物覚えがいいな。教育も手間がかからなくて助かってるよ」


 私の頭をなでるようにポンポンと軽く触る。150に届かない私の背丈からすれば180を超える長身の先輩からしたら子供のように見えるだろう。




「……スキンシップのつもりですか?」


「オレとしてはそうだが? それとも嫌だったのか? 嫌なら嫌とハッキリ言っても構わないぞ」


「いや、別に構いませんが……」


「そうか。てっきり嫌われたのかとばっかり思ってたぞ」


「じゃあ、私時間なのでそろそろ帰らせてもらいます」


「ああそうか。お疲れ様」


 そう言って私は帰路に就くことにした。先輩は私を気に入ってるそうだけど、まさか恋愛感情とかはあるわけないよね? 少なくとも妻帯者なんだからそんなバカな真似はしないはず。




「……あのハルカって子どう思う?」


「ちょっと生意気よね。新入りの癖にカケルさんに可愛がられてるってのが気に入らないわよねぇ。噂じゃ頭をポンポンと叩くスキンシップをされてるとか」


「えーっ! 何それ! 絶対脈アリでしょ!」


「カケルさんは既婚者だけど、ハルカと不倫でもしたいのかしら」


「ちょっと! カケルさんが不倫なんてありえないでしょ!? 何でそんな事を言うのよ!」


 職場のお局おつぼね様を中心とした先輩たちがおしゃべりをしている。私が先輩と仲が良い事に嫉妬しているらしい。




 カケル先輩は1年前に大手のブライダル会社からこの職場へとやってきたやり手だ。噂では前の会社では上司から嫌われ「干された」らしく、そこを見限ってウチへとやってきたという話だ。


 彼の奮闘のおかげでウチの会社の業績は順調に上がっており、近い将来出世コースに乗って重役になるという噂さえ流れるほどの敏腕のブライダルプランナーである。


 そんな、仕事もプライベートもそつなくこなす完璧な先輩に対して、個人的には不倫をして夫婦間をメチャクチャにしてでも彼が欲しい、という勇気と胆力たんりょくは無い。


 というか理想の上司である先輩が不倫するところなんて、正直見たくない。例え先輩から「お前が欲しい」と言われてもとてもじゃないが受け入れられない。


 そんな誘い話に乗ったら下手すれば無関係な子供の人生まで台無しにしてしまう。そんな事、出来るわけがない。




【次回予告】


実は先輩は結婚をしている「フリ」をしていた。彼がアプローチをかけてくる。


第3話 「迫る先輩」

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