第6話 利用方法
どれくらいそうしていただろうか……あたしたちはしばらく、三人で宇宙のような空間に佇んで動けないでいた。でも、モクレンさんが急にハッとしたように顔を上げたのだ。
「上、また入り口が開いた~」
「行こう、ボタン」
やはり、モクレンさんは気配を察知するのがはやい。二人のお姉さんに手を引っ張られて、あたしたちはまた、誰もいないもう一つの学園の内部へと出ることができた。灰色の廊下、ここは確か教職員たちの寮の近くだ。
「……!」
モクレンさんが、まるで何か匂いを嗅ぎつけた犬のように壁を見上げる。探るように手を滑らせたその一部が、ふわんと消えた。すると、濃い灰色の壁がバスバス音を立てて消えていって、一つの横開きのドアが現れた。
ドアと壁の隙間から、眩しいほどの光が漏れている。モクレンさんは、何かに取り憑かれたように、大急ぎでそのドア脇のボタンを押した。あたしもその向こうに、ただならぬエネルギーを感じてる。
「あ……」
中に入ったあたしたちは、あまりの光景に絶句した。部屋にはズラリと円柱型の水槽が並んでいる。中は炭酸水みたいに泡立って、暗い影が一つひとつ沈んでいる……。
あたしは目が良い。キキョウさんの後ろ側から目を凝らすと、水槽の中に一人ひとり『少女』が入っているのが見えた。ウェーブヘアの子、かぐや姫みたいな黒髪のロング、灰色のセミロング。
その、中の一人を見た瞬間に。モクレンさんは声にならない叫び声を上げた。感情がテレパシーを通じて痛いほどあたしたちにも伝わって来る。それに呼応するように、円柱型の水槽の中身が泡立つ。
ボコボコと空気が下から上へと流れていった。その中に灰色セミロングの、どこか憂いのある顔をした少女が佇んでいる。口元にはホクロがあった。嗚呼、こんな再会だなんて……。
「こす、もす……コスモス!!」
『忽然と姿を消した』と言われている少女たちは、きっとここで誰にも知られることなく眠っていたのだ。どの娘もまるで人形のように色白く。下から上に向けての水圧の中、ぼこぼことゆらめいている。
時たま、その身体から白い光が人魂のように抜けては上に吸い込まれてゆく。水の中、綺麗に制服が着込まれているが、中はきっと『穴』だらけなのが水槽の硝子越しにビジョンで伝わって来た。
「コスモス! しっかりして、帰ろう~? みんな待ってるよ? バニラだって待ってる……! 『コロニーO』へ、一緒に帰ろう?!」
名前を叫びながら、モクレンさんがドンドンと硝子を乱暴に叩く。その柔らかそうな手首を、キキョウさんがおもむろに掴んで止めた。あたしはただ、涙目でそれを眺めるしかない。
「残念だけど……もう。みんな生命としての機能は終えてしまってる」
「な、に言って……」
「生きているけど死んでる。ここにいる身体は、抜け殻なんだよ」
キキョウさんの、凛とした声が室内に響き渡る。それを聞いて、みるみると顔を歪めると、モクレンさんは泣き崩れた。かける言葉も見つからないまま、突然現れた背後の気配にあたしは振り返る。
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