第1話 配給日

 砂けぶり、すなけぶり、スナケブリ。


 耳鳴りがし過ぎて、機械の胸中を走っているような気にすらなった。合間にノイズのように砂の音が広がって、自分が何のために誰のために走っているのか思い出す。育ち過ぎた気がする、大きく振る手足が痛い。


 事実ここ数年で私の身体はひょろひょろと縦に間延びした。それをいつも、弟は羨ましそうに見上げている。そうだ弟だ。手足がもげてしまうんじゃないかと錯覚するほどに振って走る。砂が目や口に入らないように、ゴーグルとマスクをしているものだから息苦しい。


「……おねーちゃんはもう飲んだから、おねーちゃんはもう」


 口の中でもごもごと練習した。嘘をつくのは……そのころは不得意で。聡い弟には気づかれてしまいそうだった。


 今日は『コロニーA』の薬の配給日だ。老朽化したこのコロニーは、広大な砂丘の上に立っている。その砂は大戦で有害化し、長い間人々を苦しめていた。


 両親はとうに死に、残った弟も先日病に倒れた。薬の配給は一家庭に『一粒』だ。それも先着順で不正が行う者が出ることも目に見えていた。だって配給日も遅れにおくれたのだ。薬の成分には病気への予防の成分も含まれていた。だから私が飲まなかったと知ったら弟は悲しむだろう。


「おねーちゃんはもう……」


 角を曲がってやっと、長蛇の列の最後尾が見えた。

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