第2話 私の『これ』は違う
「あ」
急激に見えてきたのは教室だった。私が知っている教室とは違う。どこまでも机と椅子が並んでいて、その中に仮面の少女が一人で立っていた。そばにはまるでケチャップをぶち撒けたみたいに、血濡れの……。
「あれはだれ?」
見たこともない少女だった。肩ぐらいの髪の毛、短すぎるスカートの丈。体中に何かに貫かれたように穴が空いていて、踞るように何かを握りしめていた。手元が見えた、あの白い筆記用具は確か……。
* * *
「モクレンさんと一緒!」
「わ! 吃驚した急に大声出さないでくださいよ」
渡り廊下の入り口に置かれた、白いベンチ。私の隣に座って休んでいたナツメが、驚いてこちらから距離を取る。私はバクバクする胸を掴んだ。モクレンさんに、何かあるのは困る。
「そういえばモクレンさんとキキョウさん遅いねぇ」
のんびりと首を掻きながらこちらにやって来たのはボタンだった。一年も二年も、もう片づけは終わって着替えも終わっていた。
「わ、私ちょっと戻って来る」
そう短く告げると、渡り廊下の入り口から走って校舎に戻った。だって、何か、胸騒ぎがするのだ!
「あーちゃん」
「おっとっとっと!」
走ってぶち抜いてしまうところだったが、何とか立ち止まって振り向くと、階段の上のところでキキョウさんが驚いたように振り返った。
「どうしたの?!」
「どうしたのってそれはこっちの台詞だよー」
少しだけ階段を上がると、彼女も数段下がって目線を合わせてくれた。
「一階の教室行こうとしているなら無駄だよ、帰りを誘おうと思って迎えに行ったけど、四年生の教室にはもう誰もいなかったから」
「でもー、気配は下からなんだよね。もしかしたらかくれんぼでもしてる?!」
「そんなわけはないでしょう」
呆れたようなキキョウさんの表情を後目に、辺りの空気を少しすんすんと嗅いだ。キナ臭い気がする。
「……私はもう一度行ってきてみるよ。キキョウさんはみんなが心配しているから一度戻って!」
「何言ってんのよ、私も行くし」
また階段を降りだした私に、キキョウさんも急いで後を追ってくる。モクレンさんのこと心配なんだなっと、どこか感心した気持ちになった。彼女たちときたら出会ってあまり日がないというのに、こんなに互いを想い合っているだなんて、何だか可笑しい。
……私のこれは、きっとキキョウさんのとは違う。身を案じるのは自分の保身のためだと思う。四年生の教室の前まで来ると、何かが不自然なのがすぐに分かった。ガラガラと無遠慮に音を立てて扉を開ける。そこにはキキョウさんの言うとおり誰も残っていなかった。でも……。
「キキョウさん何か変じゃない?!」
無造作に置かれたハチマキの入った段ボール。それから一枚滑り落ちていた赤色を拾い上げた瞬間に、頭痛がして誰かの声が、聞こえた気がした。それは私たち五人の声のどれでもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます