夜歩奇 〜よあるき〜

竜胆マサタカ

黄昏






 日本という国が、大きく変容を遂げることとなった全ての契機。

 東京に築かれた五色不動がその意味を失ったのは、今より数えて四半世紀を遡る。


 幻想と現実とを隔てる境目。楔の役割を担っていた一大結界。

 その突然の消滅によって長い眠りから目覚めた、日本各地の霊脈。

 そして、数多なる怪奇、化生達もまた、虚構より舞い戻った。


 結界が消え去る以前より生きる人々は、夜が濃くなったと口を揃えて言う。

 発達した文明社会が勝ち取った、夜という無明なる領域の支配権。

 それが再び、人の手を離れたのだ、と。


 実際、今の世で深更の街を出歩くは、人以外が大半を占める。

 霊、妖怪、怪物。そうした超常的な存在が平然と闊歩し、跋扈し、蔓延っている。


 そんな常識セカイの変生に合わせて、様々な決まり事が移ろった。

 年号さえも変わった。平成は僅か九年で終了を迎えた。

 すっかり肩身が狭くなったと、そう語る声も多い。


 しかしながら、新たな摂理で彩られた時代。

 幻世げんせい生まれの若者からしてみれば、この在り様こそ平常。


 何より、人間が持つ最大の長所は適応力。

 四半世紀も時を重ねれば、人という生き物はすっかりと、現状に慣れ親しんでいた。






 そして、今日もまた――昏き夜が、訪れる。





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