第12話 夕食と香辛料
夕方になると、街へ付いてきてくれた騎士さん達ではない騎士さんが夕食と香辛料を持って来てくれた。
「毒反応などはありませんでしたが、見かけない材料の為何かあればご自身で対処するようにと伝言を承っております。タケ殿は毒解除ができると伺っております。万が一毒が含まれており解除する際には是非とも見学させていただきたい!」
騎士さんはキラキラとした目で訴えかけてくるが、わざと毒を盛ってたりしていないよね。シモンさんに報告をあげてもらって、短時間でこの騎士さんまで伝わるわけはないので出所はヨハネスさんとアレックスさんだろう。この身を犠牲にしてまでお願いしたのに、そういうとこやぞ。ケンはやっぱりなといった表情でため息をついていた。
夕食はいつものスープに粉末にされたニンニクを投入した。炒めたほうがいいと思いながらも、お腹がすいて我慢できなかった。シモンさんは報告に帰ったはずなのに自分の夕食を持ってまた来ていた。醤油の匂いがする液体の瓶もあったけど想像の味とは少し違って作り方とか、もしかしたら原材料から違うのかもしれない。そしたらこのニンニクも見たことのない植物とかから取れてるのかもしれない。薬草採取をしてるという子供たちなら知っているだろうか。
「なんじゃこの美味さは。味が独特だが匂いが食欲をそそるのぉ」
「買って正解だったな!人の金で食うメシはうまい!」
「タケ様美味です」
「ガーリックスープおいしいなぁ。そうだ、シナモンがあるんだからいつものリンゴっぽい果物と合わせて、パンに練りこんで焼いてもらったらアップルパイみたいにならないかな?」
本物のアップルパイにはならなくても、雰囲気くらいは味わえそう。砂糖とか使いそうだけど王城なんだから備蓄はあるだろう。
「砂糖と卵と、レモンもいるんじゃなかったか?パイ生地とかも作り方わかるのか?」
「本格的なパイじゃなくて、リンゴパンみたいなのでもいいんだけど」
「砂糖ならワシの部屋にたくさん置いてある。紅茶にドバっと入れて飲むと美味いからの。砂糖提供するからワシにもそれ食べさせてくれ」
シモンさん、甘党だったのか。そんな飲み方しちゃうと糖尿病になっちゃうよ。でも糖尿病になったら私が治してみればいいのか。そうすると治せるかどうかの実験の為に、あえて糖尿病になってもらうとかどうだろう。寿命はもつかな。
一週間後、再度外出できることになった。申請しまくって却下されまくったあの一ヶ月間はなんだったんだ。
外出までの日々は今までと変わらず、朝ごはんを食べ文献を読み、お昼ごはんを食べ昼寝する。おやつを食べてから文献を読み、晩ごはんを食べてお風呂に入って寝る。帰還方法についてケンも一緒に調べてくれるから今まで以上に捗った。
思い付きでお城の料理人さんにお願いしたシナモンアップルパイもどきはすぐに完成した。さすが王城の料理人。リンゴパンでよかったのに、イメージとか食感を伝えて香辛料を渡すだけでパイにかなり近しいものが仕上がった。外出の日に合わせて余った材料でいいので大量に作ってほしいと言ったらレシピを提供して貰ったお礼とばかりに引き受けてくれた。騎士さんが目的を伝えてくれたのかもしれない。
「孤児院に寄贈しても一時しのぎにしかならんけどいいのか?」
「一時しのぎでも偽善でもいいの。月に一度でも甘いものが食べられるなら、生きる希望が持てるでしょ?」
「……そうだな。いつか俺らで金稼ぎが出来たら太らせてやろうな」
「街の中を見て、その稼ぐ方法を考えよう!」
ゴトゴトと馬車に揺られて街へと向かう。今日もヨハネスさんとアレックスさんが護衛として付いてきてくれた。前回の教訓として、部屋に置いてあったブランケット三枚を丸めてお尻の下に敷いている。お尻が割れずに済みそうだ。ブランケットを見た騎士さんたちはなるほどといった顔をしていた。痛いのが分かってるのになぜ初めからクッションとかを用意しておかないんだろう。
「本日もまずは街に向かわれますか?先に孤児院へ向かわれますか?」
「先に街で買い物かな。食材とか買って孤児院に持っていきたいし。あ、私たちは街で買ったものは食べたらダメなのかな?」
「いえ、状態異常が回復できることが証明されましたので、今回は制限がありません。しかし内密に持参している焼き菓子はともかく、城から支給された金銭で買ったものを孤児院に渡すのは是非が問われるかと」
なるほどなるほど。前回もお金の使い道を報告していたみたいだし、お金を食材に代えたとしても孤児院に渡してしまうのは何かと問題になるのかもしれない。ケンが少し考えた後、騎士さんたちに口を開いた。だから中二病はうつらないからビビらないでください。
「だったらさ、俺たちが昼食に食べようとして買った食いモンを、思いのほか買いすぎてそのままでは持ち帰れないからその場に捨てて城に戻った。たまたま孤児院の前に捨てたけど、その後それがどうなったかは知らない、とかはダメか?」
「ま、まあ…それでしたら問題ないかと。しかし50名以上の料理を買いすぎたというのは無理がありませんでしょうか」
「そこは俺の腕の見せ所だな。材料を安く仕入れて調理するなりして、帳尻合わせたらいいだろ?」
「不審に思われない範囲でしたら構いませんが…」
今回もお城からお小遣いを貰っていて、全部使うのはさすがに不味いとしても半分くらいなら使っても大丈夫かもしれない。自分たちでも稼ぎたいなぁ。
馬車が前回と同じ場所につくと、ケンに手を貸してもらって降りた。ヨハネスさん、あなたは近づきすぎたのだ。
「前と同じ香辛料のお店見てみない?」
「そうだな、ドレスとかアクセは見ても買えないしな。あ、やっぱり露店みたいにしてある」
前回の軒先を露店風にしていたお店が、同じようにテーブルを出して商品を並べていた。商品を売っているのはこの前と同じおばさん(お姉さん)だった。
「こんにちはお姉さん。また買いに来たよ。いいの入ってる?」
「いらっしゃい!覚えてるよ、前にたくさん買ってくれたからね。今日は違うのもあるから見ていっとくれ」
おばさんが新入荷らしき瓶を指さすので、それをまたケンが端から蓋をあけていく。
三つ目の蓋を開けたあたりで、表情が険しくなって真剣に鼻をひくつかせるようになった。
「前も買ってくれたけどさ、何に使ったんだい?香りのキツいのもあるからどうにも分からなくてね」
「スープに入れるだけで味が変わりますよ。えっと、コレとコレは指で一つかみくらい入れたらいいです。あ、そうだ。こっちの瓶の粉を練りこんで焼いてもらったお菓子持ってるんでひとつあげますよ」
シナモンの粉を練りこんで焼いてもらったクッキーをおばさんに手渡す。
お城の料理人さんが焼いたので美味しく仕上がった。おばさんはご主人と一緒に食べると言ってクッキーをハンカチに包んでしまいこんでしまった。騎士さんたちが物欲しそうな顔でじっと見てるからしまって正解かも。
「タケ、これ欲しいやつ買うと金がけっこう減るけど買ってもいいか?」
「そんなにいいのがあったの?」
「左からチリペッパー、ローレル、コリアンダー、ターメリック、クミン……だと思う」
「よく分からないけど何ができるの?」
「カレー」
「全部買おう!!!」
つい鼻息が荒くなってしまった。でもケンも興奮してるみたい。お米はこっちに来てから食べた事ないしどこで買えるかは分からないけど、パンにつけたりスープをカレー味にしたりするだけでいいじゃないか。騎士さんとおばさんはやはり戸惑っている。
「カレーそのものが出来るかは分からんけど、カレー風味みたいな近いものにはなると思う」
「お城の料理人さんにお願いしたらきっと美味しくできるよ!」
その他にもシナモンとかニンニクを買い足すと、お金が残り三分の一になってしまった。カレー作るのってシナモンとかも使うんだね。知らなかった。
買い込んだ瓶を馬車に一度置きに帰り、また大通りまで歩く。屋台で焼いてるお肉とかを見てみたけれど子供たちの数を考えると全員分は買えそうになかった。仕方なく野菜や生肉を丸ごと売ってるお店で材料を買い込み、孤児院のキッチンを借りることにした。ケンが値段交渉するのがうまく、思ったよりたくさんの食材がかなり安く手に入った。イケメンだし口もうまいなんて、アンタなんなのさ。でも持ってきたお金全部使っちゃった。もっとくれたらいいのに。
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