無題
中原恵一
第4話
サー、という弱い雨の音が外から聞こえた。眠っていた私を起こすには弱すぎるくらい小さな音だったはずなのに、それでも起きてしまった。
目が痛い。朝四時の目覚め。昨日は十一時ぐらいに寝たはずだから、たった四、五時間しか寝られていない。
それでもなぜか、起きてしまった。
こんな時間だというのに、雨が降っているのに、私は住んでいるアパートを出てスーパーへ買い物をしに行くことにした。
錆びた金属製の階段を下りようとしたとき、危うく滑って転びそうになった。道は水浸しになっていて、私が歩くたびアスファルトの上を薄く覆う水が飛び跳ねた。寒さで傘を持つ手がかじかむ。秋も深まって、気温はたぶん十度を切っているはずだ。吐く息は白く、同時に吸い込む空気は体を芯から冷やすように冷たい。
私はどうして、こんなことをしているのだろう。
冷蔵庫の中みたいに冷え切った二十四時間営業のスーパーの中で、私は陳列された冷凍食品から必要な食料を選び出していた。
生きるためとは言え、このごろは外に出るのも面倒くさかった。
小さな血の塊みたいなものがくっついた鶏肉を手にとって、今日のおかずを考える。朝食はシリアルの残りでいいとして、昼食はどうしようか? 夕食は?
どうせ調理できるもののレパートリーなんて片手で数えられるぐらいしかない。そう思って、結局冷凍パスタとすぐに食べられる野菜、果物以外は何も買わなかった。
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