神皇陛下と鉄血皇女

貝柱 帆立

第1話 最後の夜

 この大陸を統べ、世界をも手に入れようとする強欲な国アルテディス帝国の皇都パーニアシュタット、その中心にある城から皇都を見下ろす少女がいた。


この国の第4皇女であるソフィア・ラディヴィフ・ティア・アルテディスである。ソフィアは、窓を開け皇帝一族の特徴である太陽が透けるような白銀の髪に風を受けながら自分のこれからのことに思いをはせていた。

 

 明日の朝になればソフィアは、かねてより話が進められていた神の治める国神聖リュシオル皇国への輿入れのために、城を発つ。ソフィアは、皇国としては前代未聞の他国出身の皇后となる。皇国内のみならず世界中から神そのもののように尊敬を集める神皇の妻になるのだ。


(遂に明日ここを発つ……。この景色ともお別れね。)


 この広大な帝国の国境には一瞬で移動のできる古代魔法帝国の遺物『テレポーター』を使い移動できる。一番近くのテレポーターのある領都までは数日かけて行き、そこからテレポーターを使用し、港を所有する領都に移動する。そのため実際にこの国とのお別れはもう少しさきではあるが、この城のバルコニーから見る景色とは今日で最後になる。


 その輿入れは、帝国の思惑と皇国の思惑が絡み合った純然たる政略結婚だ。ソフィア自身、第4皇女という身分であれば、帝国のためになる相手に嫁ぐことは当然だと考えていたが、その相手がまさか‘‘神‘‘であるとは考えていなかった。だからといって、ソフィアは弱音を吐くようなか弱いお姫様ではない。


(国境を過ぎれば皇国の用意した船で移動する。どんな洗礼をうけるのかしらね。)


 ソフィアは、この政略結婚が皇国内でどう言われているのか、既に知っていた。


『強欲な帝国が神の聖域を犯した。あんな野蛮な国の野蛮な皇女が皇后など神の血が穢れる。』


 言い方は様々だろうが貴族、民どちらでもこのような意見が多数である。


 この政略結婚は、特殊な国である皇国を侵略し手に入れるのは得策ではないと判断した帝国が、皇国が不安定な現在を狙い無理矢理飲ませたものである。皇国側としては、強大な帝国を敵にまわすことはできない状況であるため、苦渋の選択だったのだ。


 そんな国に輿入れして受ける扱いなど容易に想像できる。

 さすがに、同盟がかかわる結婚であるから極端な冷遇はされないだろうが、それなりの扱いをされるだろう。ソフィアは、その中で皇女としての威厳を失わず、帝国の利益となるように動いていかなければならない。


(一筋縄じゃいかないでしょうね。)


 ソフィアの瞳には、悲観の色はなく、好戦的な色が輝いていた。

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