SNS炎上のない世界

アーカーシャチャンネル

それを書くに至った理由

 様々なSNSをネットサーフィンしていたWEB小説家の一人、彼女はこの現状を見て頭を抱えていた。


 その理由は「尊い」というワードを、近年になって多数目撃することである。本来の意味を考えると、異例すぎるだろう。


 さすがに「尊い」を商標登録して『尊い恋人』のような商売に悪用したり、特殊詐欺の一環で「尊い〇〇を救うために寄付を」みたいなものは見かけない。


 逆に言えば、そうした事例が多少なりとも引っかかれば頭を抱える状況にはならない、という事だろう。


 彼女が頭を抱えていた理由、それは……予想外の物だった。


「尊いの価値を下げているのは、どちらなのか。むしろ、ソシャゲのSSレアのようなワードの方が希少とも感じる」


 本来の「尊い」とは「価値が高い、貴重」のような意味合いが強い。形容詞として利用されていたものである。


 しかし、彼女が頭を抱えるような事例とは「尊い」を検索するだけで数千や数万以上の事例を見かけることだ。


 これでは「尊い」の価値が低くなる。ソシャゲでいうとレア辺りまで価値が下がった状態と言えるだろうか。


(そもそも、尊いといっても引っかかる事例は一定と言ってもいい。これでは尊いとは何なのか……問いたくなる)


 彼女が検索をして発見した事例、それは現在活動中のアイドルグループの記事に対する「尊い」というコメントだった。


 同じ系列会社に所属する他のアイドルグループに関しても「尊い」というコメントを見るので、もはやこの会社の所属アイドル全員が「尊い」という認識だろう。



 これでは「尊い」の価値が下がっているのは間違いなく、希少性を高めるためにも別のワードで例えさせた方がいいとも考えたが、自分の発言の押し付けで価値以前の問題である。


 一歩間違えれば、数年に一度の特殊詐欺で大規模逮捕者が出現というようなケースで「尊い」と言われるケースまで出てしまう。


 こうした誤ったワードの拡散はSNS炎上を招きかねない、と彼女は考え、ある手段に出ることにした。


「この状況を何とかするために、これを題材に小説を書こう」


 しばらくして、彼女は「尊い」をテーマにしたSNS炎上を防ぐための小説をアップする。


 別のテーマで同じようなSNS炎上を題材にしたWEB小説の存在は目にしていた。それを踏まえての題材かぶりは止む得ないという判断だろう。



 投稿してから数日後、乱立する「尊い」を規制するべき……というような過激派や『尊い警察』のようなSNS上で『バズ』り目的で拡散するユーザーを炎上させる勢力は出なかった。


 むしろ、そうした勢力が出ることは問題があるのだが、ある程度の賛否両論が起こることは覚悟していた。


【SNS炎上を防ぐ狙いで規制法案はありだと思う】


【繰り返される悲劇や炎上行為の繰り返しに、ユーザーも疲れてきている】


【様々な『〇〇警察』が無双するようなSNSは、まさに無差別テロと思ってもよいだろう】


【まずは悪意ある情報を拡散する勢力などを一掃するのが必要。そうでなければ批判的な意見をしただけで『〇〇警察』が炎上行為を行う事が繰り返される】


【そうだな。まずは『〇〇警察』のような便乗勢力が出てこないような環境を作るべきだ】


 まさかの反応に、小説家は驚くしかない。他の作品は反応がなかっただけに、この反応が来ることを想定していなかったのだろう。


 彼女が小説で書いたSNS炎上を防ぐための方法、それは予想外の所で拡散していきSNS上のマナー向上にも貢献した……ようである。


 SNS炎上がない世界、それが「尊い」と言われずに当たり前としていくこと、それを意識していかなければSNS炎上が過激になっていくことは避けられない。

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