5話 罰
「……やってくれたわね」
「なんだ、もう拘束を解いたのか」
ルフランの動きを封じていた触手たちは、彼女の体からあふれ出した炎によってその身を焼かれ、力なく地面へと落下していった。
乱れた服を軽く整えなおしてから、相棒である
ルフランがあっさり自由の身になったことを面白くなさそうにしつつも、最大の目的を果たしたことからレオーネの表情にはどこか余裕がある。
「まったく、ダメじゃないか。せっかく僕が目をかけてあげたというのに、
「あたしが誰と組もうがあんたには関係ないでしょ。もう関わらないでって言ったの覚えていないの?」
「これは罰だ。僕に恥をかかせたこと、そして僕の愛を素直に受け取らなかったことに対しての罰」
「はぁ? 何を勝手なこと言って……」
「だが寛大な僕はそれでも君を許そう! キミのパートナー
「笑わせないで」
「――ッッ!」
ルフランは我慢の限界が来たのか、ソウル・グリードに魔力を籠める。
直後、レオーネがいた場所が、爆炎に包まれた。
何もないところが急に爆発するという異常事態に、レオーネは一歩対処が遅れ、激しく吹き飛ばされた。
「ぐっ……やってくれたね。まだ反抗するというのなら仕方がない。今度は力ずくで――ぐあっ!?」
地面を転がり、大木に叩きつけられたレオーネだが、すぐさま立ち上がり、自身の得物である剣を抜いた。
そう、レオーネは腐ってもAランク冒険者。しかもルフランよりも先に昇格している先輩だ。
いくら彼女が成長したと言っても、自分が負けるハズなど万一にもあり得ない。
そう確信していたのだが、次の瞬間、今度はレオーネの腹の前で小爆発が引き起こされた。
「
「くっ、いい加減に――あづっl? ぐおあああああっっ!!」
当然、戦闘を開始した時点で身を護る防御結界は常に体全体に張り巡らせている。
だが、それでもルフランが引き起こす
さらに彼女の体から漏れ出た炎が蛇龍の形を成し、猛スピードで迫りくる。
瞬く間にレオーネの体は炎の蛇龍によって締め上げられてしまい、更にその熱で皮膚を焼かれる責め苦を受けた。
「これで立場が逆転したわね」
「ぐ、そっっ……!!」
「悪いけど、もうあんたなんかに頭を下げなきゃいけないほどあたしは弱くない。勝手なことをした報いは受けてもらうわ」
「く、は、はははははっっ……」
「なにがおかしいのよ」
「ふん、ここで僕を殺したところで、キミの大切なパートナーは既に奈落の底だ。キミが僕のモノにならなくても、アイツを殺せたなら僕の勝ちだ!」
苦しみながらもそう自慢げに言い放つレオーネに、ルフランは大きくため息を吐いた。
そして
「喜んでいるところ悪いけど、残念だけど、あんたの負けよ」
「……は?」
「クロムがあの程度のことで死ぬわけないでしょ。あと少し待ってたら自力で這いあがってくるに決まってるわ」
「なにをバカなことを、そんなことあるハズがない。ここは魔境なんだぞ!!」
「そう思いたいなら思っておきなさい。でもあたしは確信しているわ。絶対に生きてるって」
「何故そう言い切れる……?」
「クロムは――あたしのパートナーは、いつか世界最強の剣士になる男だからよ」
何の疑いもなくそう言ってのけたルフラン。
だが、レオーネは何故彼女がそこまで自信を持てるのか全く理解できなかった。
それよりも今はこの状況を脱出することが大事だ。
全身を締め上げられ、もはや会話すら辛い状況ではあるが、なんとか声を絞り出してその名を呼んだ。
「ミューズ! テュシア! カローナ! 早く僕を助けろ!!」
それはレオーネの仲間にして自身の伴侶である三人の女性の名前。
あの時倒れていたのは三人の幻影であり、本物は別の場所からクロムたちの動きを封じる結界を貼る役割を負っていた。
だが、その結界もすでに役割を終えたため、彼女たちは少し離れた場所で待機しているはずなのだ。
しかし、自分を助けに来てくれるはずの女性の姿はいつまで経っても現れなかった。
「な、何故来ない!? どうして!?」
「ふん。残念だったわね。あんたがクズだから見捨てられたんじゃないの?」
「バカな! そんなはずは……」
「お探しの人は彼女らですか?」
「えっ……」
そこに立っていたのは、結界で押さえつけていたはずのもう一人の冒険者。
重力を操る固有魔法を持つAランク冒険者、ヘザードだった。
しかも彼女は空中に浮かせていた三人の女性を地面に叩き落すと、既に意識を失っていた彼女たちに重力をかけて押さえつけた。
「私が結界から抜けたのを確認すると、即座に逃げ出そうとしたため捕獲しました。此度の狼藉の実行犯及び重要な証人と成り得る故」
「ふんっ、これでチェックメイトかしら?」
「…………」
もうどうしようもないと悟ったのだろう。
もはや喋ることなく、ただただ下を向いて黙ることしかできなくなったレオーネ。
さらにそれから数分後、崖下から空を叩く音が僅かに響き始める。
猛スピードで空中を蹴り上がる音。
「よしっ!! 何とか帰ってこれた……どれだけ深かったんだここ……」
「クロム!」
「なっ……うそ、だろ……」
現れたのは、肩に小さな竜を、腕に見知らぬボロボロの少女を抱えた少年、クロムだった。
その姿を見て、レオーネは絶句する。
一方で何故そんなものを引き連れているのかという疑問が浮かんだが、それよりもやはり無事であったことに安堵するルフランだった。
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