9話 はじめての仲間

 声をかけられた。

 いや、本当に自分に対して声をかけたのか?

 もし勘違いだったらどうしよう。

 

 そんなことを考えながら恐る恐る振り返ってみると、そこにいたのは長い赤髪の少女。

 腕を組み、堂々とした立ち振る舞いで、蒼玉サファイアのような瞳でこちらを見ている。


「あなたは……?」


「あたしはルフラン。アナタ、固定パーティを探しているんでしょ? だから声をかけたのよ」


「な、なるほど……」


「とりあえずあっちで話さない? ここだと周りがうるさいから」


 ルフランと名乗った少女は、一階奥にあるテーブルを指さした。

 確かに周りを見てみると、自分たち二人を見ながら何やらぼそぼそと話している人たちがちらほらいた。

 知らないうちは気にならなかったが、気づいてしまったら途端に居心地が悪くなる。

 ここは一旦応じておこうと思い返事をすると、ルフランは満足そうに口角を上げて、足早に行ってしまった。

 クロムはその背中を慌てて追いかける。


「おいおい、よりによってとか」


「まあお似合いなんじゃね。どっちもほら、だろ?」


「だな。扱いにくそうな奴らがまとまってくれるならそれでいい」


 歩いていく彼らの後ろ姿を見ながら、冒険者たちは小声で会話をする。

 クロムはそんな視線に耐えながらも空いていた奥の席に腰を掛けた。


「ここなら少しは落ち着いて話せそうね。で、どう? あたしの誘い、受ける気ある?」


「えっと、その……話が急すぎる気もするんですけれど、そもそもなんで僕を誘ったんですか?」


「アナタのことは噂で聞いていたの。最初の試験でいきなりCランク認定された子供がいるってね。あ、そう言えば名前聞いてなかったわね。教えてくれる?」


「あっ、そうでした。僕はクロムです。よろしくお願いします」


「クロムね。よろしく。で、どう? あたしもちょうど仲間を探していたところなの。あたしもアナタと同じCランクだから悪い話じゃないと思うんだけど」


 どうやらこのルフランと言う少女も見かけによらず相当な実力者らしい。

 年齢は自分よりもちょっと上だろうか。

 果たして彼女はどのような戦い方をするのか、少し興味が湧いてきた。


「でも僕、今日冒険者になったばかりなので、その、ルフランさんの足を引っ張っちゃうことも多いと思うんですけど」


「それでいいの。ってかそれがいいのよ」


「え?」


「あたし、一応これまで何度か臨時パーティってヤツを組んでみたことがあるんだけど、なんと言うか全然合わなかったのよねー。どいつもこいつも先輩面してあたしの意見にはなんも耳を傾けちゃくれないし、戦いだってあたしより弱いのにお前は後ろでサポートしろとかいうし、報酬だってお前は新人なんだからとか何とか言って分け前減らしてくるし! それからそれから――」


 止まらないルフランの愚痴に苦笑いしながら相槌を打つクロム。

 彼女の言葉の節々には自らの強さに対する確信のようなものが含まれており、クロムはそれが見栄ではないことを何となく肌で感じていた。

 とはいえ、彼女の話を聞いているとパーティを組んで協力する、というのは想像しているよりもずっと難しいのかもしれないと思った。

 

「――あっ、ごめんなさい。ちょっと喋りすぎたわね。まあ簡単に言えば、せっかく組むなら同じような新人が良いって思ってたの。でも新人でCランクなんてなかなか現れないって話じゃない。だからまあDランクか、最悪Eランクの子でもいいから誰か出てこないかなって探してたのよ」


「そこで僕が現れた、と」


「正解! そういうことよ! だからアナタが他のところにとられる前に声かけようって思ってずっと待ってたの」


 そう満面の笑みで言い放つルフランに、クロムは少しばかり気圧けおされた。

 あたしの誘い、断るわけないよね? と言わんばかりの自信に満ち溢れた笑み。

 とても可愛らしい顔立ちをしているが、髪色も相まってその迫力はまるで燃え盛る炎のよう。


「もちろんあたしは報酬のピンハネなんて絶対にしないし、もし組むならアナタとは対等な仲間でありたいと思ってるわ。他の変なところに入るよりもずっといいと思うんだけど、どうかしら」


「うぅん……どうしようかな……」


「あら、意外と慎重に考えるタイプなのね。それとも、あたしと組むにあたって何か不満とかあったりする? 要求があるなら可能な限り聞くつもりでいるけれど」


「いえ、そういう訳ではないんですけど……」


 正直、彼女と組むのも悪くないと思っている自分もいるが、本当に大丈夫なのかと心配する自分がいるのも事実。

 話している感じ、ルフランは決して悪い人ではないと思う。

 お世辞にもコミュニケーション能力が高いとは言えないクロムにとって、彼女の誘いを振ってまた別の見知らぬ誰かのパーティと交渉するのはハードルが高い。

 だったらこれも何かの縁だと思って受け入れるのが得策なのかもしれない。

 

「仕方ないわね。まずは臨時パーティからでも、お試しで――」


「いえ、決めました。そのお話、受けようと思います」

 

「ほ、ほんと!? それならいいんだけど、本当にいいの? 誘っておいてなんだけど、強制する気はないわよ?」


「はい。これからよろしくお願いします。ルフランさん」


「そ。なら〝さん〟はいらない。ルフランでいいわ。こちらこそこれからよろしくね!」


 これもまたきっと運命なのだ。

 嬉しそうに笑みを浮かべながら握手を求めてくるルフランの手を握る。

 その時、一瞬ルフランが驚きを見せたが、すぐに強く握り返してきた。

 願わくば、この出会いが良い未来に繋がらんことを。

 クロムもまた、小さく笑みを浮かべた。

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