第23話 内戦の後始末

 反乱軍を鎮圧し、侵攻してきた王国軍を殲滅したことで戦いは一応の終わりを迎えた。

 しかし、正式にアリアノールさんが鎮圧宣言を出すための報告が必要だとアレスさんに言われてしまい帝都に急いで帰らないといけなくなった。


「でもまだ王国側から流れ込んでくるんじゃないの?」

「いえ、新型の武器を持った兵士を送り込んだのに何の戦果も上がらなかったとあればしばらく攻め込む気にはならないでしょう」


朱音の”それな!”と言いたくなるような疑問も即座に返されてしまった。

 とは言え全部隊を一気に引き上げるにはまだ場が混乱しているということで騎兵を中心に国境部のパトロール隊を臨時でヴィンチ伯爵が指揮することになった。


(川を使って防衛線はったり、誰よりも早く現場対応したのにいいように使われてかわいそうね……)


あまり知らない方だがきっといい人なんだろうなと思いながら今度は朱音の背中にしがみついて帝都まで馬で走り始めた。

 歩きの兵がいることもあってスピードは出ない帰り道だったが、いざ帝都の門をくぐるとさらに遅くなり、目抜き通りでは住民が出てきて凱旋を祝福してくれた。


 「ホントに英雄扱いになっちゃったね」

「名ばかりじゃなくなった分、前より肩の荷が軽いな」


軽く肩を回すポーズをとって見せると少々緊張もほぐれたのか朱音も他の兵士たち同様に胸を張って闊歩した。

 かなり時間をかけて宮殿の正式な謁見の間に通され、朱音について行ったというアンナ様から反乱の鎮圧を、俺から王国軍の撃退と騎兵で警戒を行っていることを報告した。


「――あ、」

「どうした蒼、報告していないことがあるのか」

(ちゃんと言わないといけないよね……)


面倒だし永遠に忘れ去りたい存在だが、なまじ立場のある人間だったので報告することにした。


「王国軍の防衛陣地を突破する際、ニヘア侯爵以下数名が魔法攻撃により倒れました」

「そうか、この一連の戦いで唯一の貴族からの死者になるな」

「残念です」


ヨシ!報告もしたし、きれいさっぱり忘れられるZE!

 その後いつまとめたのか非常に気になるかなり詳細な被害状況をまとめた報告書をアレスさんがアリアノールさんに渡して、その場は終わった。

 翌日の朝、国民向けにアリアノールさんこうていへいかから終戦宣言が出され、なぜか宮殿に呼び出された。


 「参上しました」

「おはよう。まあ、座りたまえ」


お?アリアノールさんちょっと困ってる?

 何かしでかしたかなと昨日の出来事を思い出していると、両手で頭を抱えて本当に困ったという様子でアリアノールさんが口を開いた。


「昨日報告したニヘア侯爵は君が殺したのか……」

「ああ、それですか」


なるほど、今頃になって考えてみるとイライラしていたとはいえ貴族殺しはまずかったかもしれない。もっと分かりにくい方法で殺せばよかった。


「貴族を殺すのは非常に重い罪だが、まあ、事情があったという話もあるし王国軍を撃退した功績もあるため今回はお咎めなしにする」

「それはどうも」


この話をしてもなおアリアノールさんの顔は晴れず、さらに口を開いた。


「問題は君が殺したニヘア侯爵は王国南東部の港町を治める領主だったから、街が混乱しているという報告が上がってきているんだよ」

「なるほど……」


領主の認可が必要なこともいっぱいあるだろうし、事務作業をしてる人はきっと大変だろうね。


「だから、君には領地を持ってもらう。表向きは殉死した貴族の領地を功績を上げた英雄が引き継ぐという形にする」

(嫌だなぁぁぁ)

「感情が顔に出過ぎだぞ」


本当に面倒くさいし嫌なので顔に出るのは仕方がない。


「しっかりと責任を取ってくれたまえ」

「あー……。自分の尻は自分で拭くのが道理ですからねぇ。拝命しました」


 領地を持つ貴族になり、その領地は王国と近いということできっと色んな問題が噴出するんだろうが、また別の話として割り切るほかないだろう。

 英雄としての生活はまだまだ続くのだから。

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