縁遠豆         ♢

 門がキィときしみ玄関前に人の気配がする。ドアを開けると見知らぬ少年がいた。

「お母さんがおじさんの話を聞いてきなさいって」真っ赤な目で僕を見上げる。

 ああ、君も縁遠豆えんどうまめを食べてしまったんだね。


 少年はソファに浅く腰掛けた。緊張に震えてる。可哀想だが言わねばならない。

「だいたいは君の考えてる通りさ。縁遠豆を食べた子はこれからずっと縁遠くなる。そうだな。まずは今の友達を大事にしなさい。新しい友達を作るのは苦労するよ。僕は中学、高校、大学と第一志望はことごとくダメだった。就活も全滅でバイト暮らしが長かった。その間ずっと片想いばかり…」

 少年の目から涙がこぼれた。

 そのとき「ただいま。お客さん?」

 玄関から妻の声がした。

 少年が驚いたように顔を上げた。僕はうなずいた。

「奥さん帰ってきたみたいだ。たぶんシュークリーム買ってるから君も食べなさい」

 

 まだまだ話すことがある。縁遠くなるけど縁がなくなるわけじゃない、そんな話をね。

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