庭の文明        ⌘

「今夜打ち上げよ」

 妻が縁側に晩酌ばんしゃくセットを持ってきた。庭では打ち上げ花火に似た小さなロケットが飛び立つところだ。カラフルな光が草の間に瞬く。小さな群衆は喜びに沸いた。私も敬意を表して杯を上げた。


 床下浸水した半年後、雑草とともに庭に小さな文明が発生した。ありと人を掛け合わせたような小さな生き物が、集落を作り、虫を使役することを覚え、戦争と統一、分裂と再統一を経て、あっという間にロケットを飛ばすほどになった。その文明は人を超え地震予知すら的中させた。地下シェルターに小さな群衆が避難した3日後大地は揺れ、我が家の門柱は倒れた。


 いつものように縁側で晩酌していると、突然次々と小さなロケットが打ち上げられた。驚いて庭の文明を見ると、誰も居なくなっていた。

 これからなにが起こるのか。見上げた空に暗雲が立ち込めた。


 3日間降り続いた雨は止み、我が家はまた床下浸水した。文明は泥濘でいねいのなかに消えていた。

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