告別式         ♧

「遺族を代表いたしましてひとことご挨拶あいさつ申し上げます。

 故人は一見すると物騒な印象でしたが、その実は、しあわせな家庭生活の象徴ともいえる方でした。目を閉じて故人を思い浮かべるとき、皆様の心にはあの懐かしいお茶の間が浮かんでくることでしょう。テレビから流れる賑やかな笑い声、じゃれあう兄弟たち……


 生前はひとかたならぬご厚誼こうぎにあずかり、最後のお見送りまでいただき、故人もさぞかし感謝していることと存じ上げます」


 荘厳そうごんな音楽が流れるなか、すすり泣きの声が響く。

 別れを惜しむ参列者たちは花で飾られた祭壇を見上げる。その真ん中には故人——『チャンネル争い』の文字が。


 こうしてしめやかに式は執り行われ、またひとつ、言葉が死語の世界へと旅立っていった。

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