ワケあり竜騎士団で子育て始めました ~堅物団長となぜか夫婦になりまして~
文里荒城/ビーズログ文庫
第1章
1-1
★第一章★
一台の馬車が、山道を
二頭立ての馬車は、屋根や窓、
けれどその馬車は、乗っている者に景色を見せるつもりなどこれっぽっちもないようで、ただひたすらに速度を上げて、一心不乱に進むばかり。時折転がっていた石を
「っ」
座席に
「くそっ、王都は目の前だってのに!」
「
ガタガタという馬車の音に混じって聞こえてくるのは、護衛の
十七の
(
「来るぞ!」
思わずレイラも、激しい風に
木々を
それらは十数
「あれは……」
「
騎士の
「
「ありがとうございます。しかしクリフォード様、顔を出さないように。危ないですので」
「すみません」
騎士に声をかけられ、レイラは顔を引っ込めた。おとなしく、カーテンの隙間からことの成り行きを見守る。
「俺らで魔物を食い止めます。その間に王都まで向かってください!」
「は、はいぃ!」
「よし、行くぞ!」
騎士達は腰や背中に下げていた武器を抜くと、魔狼に向けて馬を走らせた。訓練された馬達は、騎士の意思に逆らうことなく、群れへと飛び込んでいく。
レイラはその様子をハラハラと見守る。といっても注目するのは騎士ではなく、馬だ。
つい目で追ってしまうのは、毎日のように動物の世話をしてきた
だがやはりそこはさすがで、
「ハァッ!」
さらに騎士の
あれが術具――風水火土、自然の四つの力を
しかし魔狼も、そう
魔物の魔力も、風水火土に分類される。目の前の魔狼の魔力属性は『土』だったらしい。
「あっ」
小ぶりの山が地面から次々と盛り上がり、騎士や馬を攻撃して行く手を
「魔狼数匹が追いかけてきています! 急いでください!」
「ひぃぃぃ!」
レイラに言われて、御者が馬を
(馬には
レイラがそんな心配をしているうちに、馬車は山を抜けて平地に飛び出した。
緑の原の向こうに、高くそびえる
ライベルは、魔物の
あともう少し、という思いで、レイラの気が
その直後。
「きゃああああッ!?」
「っぁ……!」
気づけばレイラは原に横たわっていた。打ちつけた体のあちこちが痛む。
どちらにせよ、
(
馬車を引いていた馬の姿は、車体に隠 かく れて見えない。
反射的にそう思うレイラだが、低い
魔狼達が、レイラを囲んでいた。鋭い歯を
「うわあああ来るなあああ!」
馬車の方からは御者の
御者がどうかは知らないが――あの様子だと武器を持っていないと思われる――レイラは
目を
「っ……」
一
「ゃ……ッ」
そのときだ。
「え……」
青空に
(あれは――!)
「カール……?」
レイラは大きく目を見開いた。
長い首がぐるりと向きを変え、馬車を見やる。立派な
口が開き、
「ぎゃあああ! なんでドラゴンが!? ひいいいぃぃッ!」
炎は、御者を狙っていた魔狼に襲いかかった。魔狼達は熱さに
だが何匹かは炎から
「危ない!」
数
その
そして前方の魔狼は、ドラゴンの炎に包まれた。
(
前後左右に囲まれた
ドラゴンも魔物の一種だ。そんなドラゴンと人間が信頼関係を築いているなんて……!
レイラが瞳を
魔狼達がいなくなると同時に、レイラは立ち上がり馬車へと駆け
それよりも気になるのは馬達だ。
「
興奮して暴れる馬に
(一応問題はなさそうですが……)
目に見える外傷もなければ、立ち姿に不自然なところもない。
「おい、だいじょ……」
地面に降り立ったドラゴンの背から、誰か――男だ――が声をかけてきた。
「ひいぃっ! もうお
が、男の声は
「食ったりしないし襲いもしない。俺らは
「来るなあああああ!」
「……」
混乱していて、
対してレイラは、いつもは無表情なその顔をパァッと明るくさせると、静かに
「カール!」
紅い
また、首には革か何かで作られたらしい首輪があった。
(……カールでは、ない……?)
改めて見上げたドラゴンの顔つきは、
(そうですよね。カールとは七年前のあれきりで……)
同じ
(しかし、それよりも)
別の
ドラゴンはレイラに
体は温かいし、呼吸もしている。けれど表情一つ変えない姿に、生を感じられない。
「あの、ありがとうございました。
「おい」
話しかけようとしたレイラは、背後から
「何してる」
背は高く、
自分を見つめる切れ長の金色の瞳に、レイラの目が吸い寄せられる。
(見覚えがある……?)
彼と会ったことがあるとかそういう意味ではない。思い出したのは、以前家に迷い込んできた
「失礼しました。この子にお
「喋る? 何言ってるんだ?」
「……いえ、なんでもありません。忘れてください」
「感動しました。魔狼の攻撃に即座に対処する冷静さと、まるで一心同体のような動き」
四方八方から襲いくる魔狼をあっさりと
「お二人の信頼関係が伝わってきました。まさか人間とドラゴンが共存していたとは――」
「誰がッ」
早口でまくし立てていたレイラだったが、不快そうに
「え……」
聞き返すが、彼も怒鳴った自分に
かといって謝罪もなく、彼は無言のままドラゴンの背に飛び乗る。手綱を引けば、ドラゴンは宙に
「あ……」
レイラが引き止める間もなく、ドラゴンの姿は遠ざかっていく。森に向かう様子から、逃げた魔狼を追ったのか、護衛の騎士達の加勢に行ったのか。
「誰かあああ! ドラゴンがあああああ!」
「もう行きましたよ」
「竜騎士団……」
震える御者とは対照的に、レイラは目をキラキラさせ、
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