隣の新木君
瀬川
隣の新木君
隣の席にいる新木君は、とても可愛い。
身長は僕よりもずっと大きくて、ガタイだって野球をやっているからか肩幅も広い。
太い眉毛は、いつもしわがよっているし、無口で無表情なせいで、みんなからは怖がられていた。
でも僕は知っている。
新木君が実は可愛いってことを。
◇◇◇
「おはよう!」
僕の一日は、新木君への挨拶から始まる。
声をかけると窓の方を見ていた新木君は、こちらに視線を向けてくる。
「……はよ」
それだけ言うと、あとは興味無いといったばかりに、顔を戻してしまう。
普通だったら、なんて冷たいんだと挨拶するのが嫌になるかもしれない。
でも僕は、その変化に気づいていた。
挨拶をした後、新木君の耳が真っ赤に染まっているのを。
話しかけられて嬉しいけど、どんな反応を返せばいいのか分からない。
何とか返せた言葉に、内心では嬉しくてたまらない。
それを必死に隠して、でも耳はごまかせなかった。
これを見るために、僕は毎日挨拶するのを日課にしていた。
新木君は無口だと、周りからは勘違いされている。
実際は口下手なだけで、頭の中でぐるぐる考えているから眉間にしわがよって、それで怖い顔になってしまう。
いい答えを思いついた時には、みんなが怖がっていなくなっていて、それを寂しそうにしている姿を目撃したことがあった。
何も言わずに抱きしめにいこうかと本気で考えたけど、そんなことをしたら嫌われる可能性があったから、なんとか抑えた。
まるで捨てられた子犬のような顔は、僕にしか見えない特権だ。
本当は優しいのを知ってもらいたい。でも独り占めしたい。矛盾した気持ちを抱えた僕は、今のところ少しの会話を楽しんでいる。
挨拶が出来るだけで幸せを感じているから、これ以上を望むのは贅沢である。
はっきり言おう。
僕は新木君のことが、恋愛感情込みで好きだ。
最初は見た目通り怖いと思っていたけど、不器用なところに気づくたびに、その気持ちは大きくなっていた。
でも恋人になれるなんて、全く思っていない。
新木君は女の子が好きだろうし、仮にそうじゃなくても、僕を選んでくれることは無いだろう。
挨拶をする程度でしかない隣の席にいる奴なんて、席替えをしてしまえば終わってしまう関係だ。
そう考えるたびに胸がチクチク痛んで、たまらない気持ちを感じていた。
◇◇◇
僕は夢を見ているのだろうか。
目の前に顔を真っ赤にさせた新木君が立っている。
耳がおかしくなったのじゃなければ、今その思っているよりも小さな口から、こう言葉が聞こえてきた。
好き
ポンコツな脳が都合のいいように解釈したくなるが、まだ喜ぶのには早い。
すきという言葉にも色々な意味があるし、好きだったとしても、それが僕に対しての言葉とは限らない。
どう解釈したものかと固まっていれば、新木君の瞳に涙がにじんだ。
そんな顔も可愛いけど、急にどうして泣き出した。
表情に出さないままパニックになっていれば、嗚咽混じりに新木君が話し出す。
「……や、っぱり……ひっく……迷惑、だよなっ……挨拶されただけで、ひっく、嬉しくなって、好きになられるなんてっ……」
都合のいい解釈でもいい。
今この時に新木君を抱きしめなければ、僕は男として終わっている。
ずっと大きな体を抱きしめれば、新木君の涙が止まって、状況を理解していないのかキョトンとした顔になった。
やっぱり可愛い。
僕は新木君に尊いという感情を抱きつつ、その小さな唇に軽くキスを落とした。
「僕も君のことがずっと前から好きだったよ」
隣の新木君 瀬川 @segawa08
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