第151話 普通の一般的な付き合い方?

「ああ、阿波盛さんが僕なんかに付き合ってって言ってくれるなんて、感動したなあ。すごくうれしかったよ。あ、阿波盛さんが真面目にノートを取ってる。姿勢がいいなあ。かっこいい。あ、ツインテールの髪を指でクルクルしてる。かわいい仕草するんだなあ」


 うるっせえ。あかねのヤツ、絶対長谷川が自分のことを見てるか確認するためにわざと髪触ってやがるな。あのかまってちゃん。


「でも、ツインテールあんまり似合ってはないよね。顔が大人っぽいから、もっと落ち着いた髪型の方が似合うんじゃないのかなあ」


 それな。

 あ、あかねの動きが止まった。


「長谷川! さっきからブツブツうるさいねん! 授業中は静かにしいや!」


「え?! あ、ごめん」


 ほめられてる間は文句なんか言わなかったくせに。


「長谷川くん、阿波盛さん、授業中は静かにしてくださーい!」


 そら教師に注意もされるわ。ふたりとも超うっせえ。


「まさか、本当にあかねと長谷川が付き合うとは思わんかったわ」


 仕掛けといて何だけど。


 放課後、いつものように叶、充里、曽羽、佐伯、仲野、行村とあかねと長谷川と真ん中の列後ろの方の席辺りに集まっている。


「うち、パジャマパーティーで気付いてん。長谷川って心の声がダダ漏れな上に性格が良くて人のことほめてばっかりやから、長谷川と付き合ったら垂れ流しでずっとほめてもらえるねん。男ってシャイやん? 好きだとかかわいいとかあんまり言ってくれへんやん? 言ったところで付き合い始めだけやん?」


 どんだけ恋愛マスター気取りでしゃべってんだ、エセ関西人。


「たしかに、恥ずかしくて言えねえなあ、そんなこと」


「俺はかわいいねーとは軽く言うけどね」


 デカいゴリラルックで頬染めながら仲野が頭をかく。結局友姫とは付き合ってんだろーか。興味ないから聞かねえが。


「行村言うの?! 行村がかわいいねーなんか言ったら女の子キャー! だろ」


 佐伯が両手で顔を隠す。今の行村ならそうなるわなあ。


「そのキャーを見たくて言うんじゃん」


 モテる男のイヤな所が出だしてきたな、行村。


「ええやろ、比嘉さん。うちの彼ピッピめっちゃ好きって言ってくるねんで」


「え……い、いいわね」


 うん。そんなことでマウント取ろうとされても困るわな。あかねは超自慢気だけど、俺もよく言うからな。


「ええやろ、曽羽さ……」


 充里のひざの上に普通に座ってニコニコと笑っている曽羽を見て、あかねが椅子に座る長谷川のひざに乗る。


「ええやろ、曽羽さん」


 何がだよ! どんだけ張り合いたいんだ、お前は!


「え! ちょっ……恥ずかしいよ、阿波盛さん! それにちょっと重いなあ」


「重いとかゆうたらあかん! 女の子に重いなんか禁句や!」


 長谷川のひざの上でわめき散らしてるあかねがうるさい。


「俺、バイト行って来るー。叶、帰ろー」


「うん、そうね」


「なんでやねん! まだいつもより時間早いやん、入谷!」


「じゃーねー、バイバーイ」


 あかねを無視して手を振って教室を出る。廊下に出て叶の手を取る。


「こうやって手をつないだりとかも、統基はよくするけど普通なのかしら?」


「充里と曽羽もしょっちゅう手つないでんじゃん」


「なんか、充里も特殊っぽいって言うか、一般的ではなさそうだし」


 叶が何を気にしてるのかが分かんねーな。普通の一般的な付き合い方を知りたいんだろーか。……一般的?!


「お前、他の男と付き合う時のために今の付き合い方が普通かどうか気になってんじゃねーだろーな」


 歩き始めてたけど、立ち止まって叶の目を見る。


「え? そんなことひと言も言ってないでしょ! 勝手な想像してにらまないでよ」


「じゃあ、なんで一般的かどうかなんて気になるんだよ」


「特に深い意味はないわよ。初めて男の子と付き合ったから、これって普通なのかなって疑問に思っただけよ。私は統基と違って男友達もいなかったし、距離感って言うか、ちょっと分からないだけ」


「待て、お前! この距離感は男友達の距離感じゃねーからな! 他の男と手ぇつなぐなよ!」


 俺たぶん、一般的よりかスキンシップ多いだろうなって自覚あるし! この俺の距離感を一般化すんじゃねえ!


「つながないわよ」


 呆れたように笑う。そっか、ならいいんだけど。


 たしかに、叶は男と言えば父親と遥さんくらいか。同級生の男はそうそう声かけらんねーしな。無意識に女の子に声かけちゃう俺でも無理だった。今は一緒に遊ぶ男も増えたけど、1年の頃は基本彼氏である俺と親友の彼氏である充里くらいだったもんな。


 創作居酒屋ひろしの近くまで叶についてきてもらう。人気が少なくなったらチューは無理でもハグくらいはして別れたいのに、今日は人が多い。祭りでもやんのか。


「人多いな。こう人が多くちゃハグもできねえ」


「へー、統基が周り気にするなんて珍しいわね」


「え?」


 そう言えば、そうかも? さすがにチューは人がいないのを確認してからしかしねーけど、ハグしてもトラウマが出なかった頃は見境なく抱きついてた気がする。


「俺ももうすぐ17歳になるし、周りを気にする大人になっちまったってことかな。子供みたいにどこででも抱きつけねえのさ」


「たしかに、道端で抱き合ってる大人なんて見たことないものね」


「んー、でも俺はそんな大人になりたい気もする。周り優先でハグしたいのにしねーのもなんかイヤだな。よし、ハグしまーす」


 宣言して抱きつくと、笑った叶の肩が震える。叶も腕を回してくる。


 あれ? 普通に力加減ができる。いつも、初めは人間らしく力加減ができていても叶が応えてくれるとつい力が入ってたのに。なんでだろ。あれも一種のトラウマだったのかな。

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