第51話 高校生の偉そうな説教
ゴールデンリバーのベッドの上で、2人して金色のガウンを着て天音さんとマリオカートに白熱している。
「よし! 勝った!」
俺は男だ! 男たるもの、たとえだいぶ年上の大人でも天音さんに負けるなんてプライドが許さない! ぜってー負けねえ! かなりヤバかったけど、意地でも負けねえ!
「ほんっとに負けず嫌いね! 1回くらい勝たせてあげようとか思えないの?!」
「手ぇ抜かれて勝っても嬉しくないでしょー」
天音さんお気に入りの睨んだ目で笑う。俺、いつの間にかこんな芸当ができるようになったんだな。なんか対ドM仕様が増えてく気がするんだけど。やめて、俺SとかMとか嫌なの。
「あー! 今すごい好みの顔したー。写メ撮りたい」
「させるか! 証拠画像なんか撮られたらどんな脅しを受けるか分かんねーからな」
「統基がこうして会ってくれるなら脅したりしないわよ」
「信用ならねーなあ」
とは言え、正直助かってもいる。
天音さんの存在がなければ、俺はもっと比嘉に対して成長を待つなんて余裕なくガツガツいってしまっていたと思う。その結果、嫌われてたかもしれない。ありがとう、欲担当、橋本 天音さん。
だがしかし、感謝だけじゃ済まされねえ部分があるんだよ。
「俺1個すげー気がかりなんだけど。俺の学校さ、夏休み明けたら2クラス減るくらい辞めた奴いるの。妊娠して辞めた奴もいてさ。俺、天音さんに子供できたって言われても何もできねーよ」
しかも、付き合ってもないのになんだよ。いや、実際は分かんねえよ?
真鍋は那波しかいねえー! って思ってたけど俺らには分かんなかっただけかも知んねえし、結愛のことだって好きだから付き合ってたんだろうから那波に心変わりしたなんて言えなかったのかもしれない。
でも、もしかしたらちょっとした火遊びのつもりが那波の親を激怒させる結果になったのかもしれない……。
「分かってるわよ。責任取れなんて言わないから安心して」
えらい軽く言うな。いや、何なら俺より天音さんの方が真剣に考えるべきじゃねえの?
「そんなこと言って、万が一できたらどうするの?」
「統基に迷惑は掛けないわよ。大人なんだから大丈夫。そんな心配、しなくていいよ」
「大人なら大丈夫なもんなの?」
「そうよ。統基には何も言わずにおろすこともできるし」
「……え……?」
コントローラーから手を離し、天音さんを見る。俺の様子に気付いた天音さんも、コントローラーを置いた。
マジな顔になってるんだろう。天音さんからヘラヘラした笑顔がなくなって真剣に俺の顔を見た。
「何も言わずにってどういうこと?」
「できたなんて聞いたら気になっちゃうでしょ。本当に統基に迷惑なんて掛けないから、安心して」
え、何? 真実を伝えるよりも何も知らずに気楽な方がいいだろってこと? いい訳ないだろ!
「俺は知らなきゃそれでいいなんて思ってない。できたって教えられることが迷惑なんかじゃない。できてもおろせばいいと思ってるの?」
俺をそこまで無責任な男だと思ってんのか。やっぱり子供だと思って舐めてんのか、俺のこと。
天音さんが答えない。図星だな、この女。都合の悪いことにはダンマリだ。とんだ大人だよ。
「望まない子供なら消せばいいのかよ」
「じゃあ、どうするの? お互い学生で……結婚もしてないし、する予定もないでしょ、私達」
天音さんの語気が荒くなる。やや苛立ってるみたいだ。たしかに、お互い学生な上に俺は高校生だ。年齢的にも結婚なんてできないし、正直する気もない。
そりゃあ、俺になんか頼れないかもしれない。俺なんか蚊帳の外にほっぽらかして自分ひとりでことを進めた方が早いかもしれない。でも……
「それで消されるなら俺、今ここにいねーよ」
「え?」
俺だけじゃない。俺ら兄弟、誰ひとり今生きていないかもしれない。
俺ら兄弟は、長男の亮河から末っ子の廉まで6人も揃いも揃って望まれて授けられた子供だと断言はできない。
「俺の親も結婚する予定なんかなかったし、結婚してない」
「え? じゃあ、お母さんがひとりで統基を育てたの?」
「いや……産んでくれた母親は俺が5歳の時に死んでるから、親父が。でも、親父が結婚したから今は母親がいる」
「……お父さんが結婚した人だよね、今いる母親って。上手くいくものなの? 実の親子じゃなくても」
「そんなの関係ねーよ。弟も血は繋がってないけど、俺の大事な弟だし」
廉だけじゃない。花恋ママだって、時間はかかったけど、やっぱり普通の母と息子ではないかもしれないけど、俺は普通の母親じゃなくても気にならない。普通の母親なんて知らねーもん。心から俺の母親でいてくれてありがとうって思ってる。
あんま家にいねーからたまにしか顔見ねえけどな。最早、父親共々母親なのにめったに遭遇しないレアキャラだけど。
「そうなんだ……」
「話そらすなよ」
「そらしてないわよ。急にそんな話されたら、そっちが気になっちゃうわよ」
あ、そうか。そうかも。
「大丈夫よ、絶対に統基に迷惑掛けないから……あ、そういう意味じゃなくて。できてもおろせばいいなんて、もう考えてないから」
「考えてたんだ、やっぱり」
「……そんなこともないけど」
しっらじらしい。万が一の時に子供ができるのは俺じゃなく自分だぞ? 自分の体のことなのに、そんなんでいいのかね?
「もっと自分を大事にしなさい」
「高校生がする説教じゃないわね、それ」
「マジで」
「……分かったわよ」
高校生にこんな偉そうに説教されてどうすんだよ。全く、大人のくせに軽い考えしてやがるなあ、天音さん。
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