ダブルスタンダード
ミケ ユーリ
硬派な魅惑の男(誤解)の初恋は後悔を積み重ねる
第1話 チャラい男子高校生が出会った超かわいい女子高生
雲ひとつない青空が広がる朝の高校。開花の早かった今年はもう桜の花が散りまくっている。
その桜の木に登る金髪のデカい男に気付いて、通りすがりの女子2人組が
「えー、木登りしてるよ、わんぱくー」
と驚いている。お、ふたりともかわいい!
「ねー、びっくりだよねー。今コイツ女の子見てるから、狙われちゃうよー逃げてー」
声を掛けてみると、女子ふたりが桜の木にもたれる俺に気付いて驚いた表情になる。
「俺もかわいい女の子好きだから、君たちのこと狙っていい?」
「え!」
「俺1組の
「えっと、まだクラス分け見てなくて」
「見てきて教えてよ。俺らと遊ぼーぜい」
「う、うん! 見てくるね」
笑って手を振って女子たちの後ろ姿を見送る。かなり戸惑ってたけど、期待できそうだな。
高校なら中学時代の俺を知る人物は少ない。誰にだって絶対いいところはあるんだから、最初に告ってきた女の子と付き合う!
「いた!」
と叫んで、木に登っていた
「何が?」
「俺の求めていた黒髪ロングのかわいい小柄ちゃん! めちゃくちゃかわいい! あんなかわいい子早い者勝ちだわ!」
走りだそうとした充里が止まった。
「どうした? 行かねーの?」
「向こうも2人組みたいだな。統基、一緒に行こうぜ。お前どっちがいい?」
充里がブレスレットを重ねてジャラジャラうるさい腕で中庭の奥の方を指差す。精一杯背伸びをして、充里の指の先へと目をやる。
黒くて長い髪を風にたなびかせるひとりの女子生徒に目を奪われた。なんっだ、あの子……。
遠目にも、ネコのように大きな目が特徴的な美人だと分かる。制服をかわいく着崩している女子が多い中、きっちりとブレザーのボタンを全部閉めてマジメそうだ。
だが、外見だけじゃない。何より驚いたのは彼女がまとっている雰囲気だ。
小さくて細い体から、たしかな自信に裏打ちされた堂々とした空気が発せられていて、尊い。
あれほどの美人に単にかわいいとか、充里バカだろ、語彙力ゼロか。あんな人間見たことない。何あの子、超かわいい。
「充里、あの柱の所にいる子のことか?」
「そう!」
クラス分けの確認が済んだのか、掲示板から日陰になっている校舎の柱の方へともうひとりの女子と歩いていたようだ。
日陰で彼女と並んで笑っている子は、赤みの強い茶髪を頭のてっぺんでお団子にしている。丸い顔に丸い大きな目で、彼女よりもだいぶ背が高くぽっちゃりした、胸が大きな笑顔のかわいい子だ。
どっちがいいって、迷わず彼女だ。だがしかし、彼女を先に見つけたのは充里だ。
充里に先を越された女なんて、迷わず却下だ。充里の二番煎じなんぞ、男のプライドが許さん。
「俺、お団子の子」
「よし、割れた! 行こうぜ、統基!」
充里が彼女に向かって一直線に走り出す。自由人でバカな男だが、あんな美人にも臆さない度胸は尊敬する。俺には無理だ。
「おはよう! おふたりさん、何組? 俺、1組の
ふたりが驚いた様子で充里を見る。
「箱? 箱作……なに?」
お! この美人けっこう声低い! いいじゃん、大人っぽい。
「箱作 充里!」
美人がそのキレイな顔の眉間にしわを寄せる。え? 名前を言っただけなのに、なにか機嫌を損ねたんだろうか。
「どうしてあなたの親は箱作なのに充里なんて名付けてるのよ。つくりに充里で言いにくいじゃない」
言いにくいだけかよ!
「じゃあ、どんな名前ならいいと思う? 箱作ー?」
「え? そうね、箱作……箱を作る……」
お、ちょっと楽しそうに考えだした。うわー、マジでキレイな顔してるわ。近くで見ると信じられないくらい美人だ。
「出た!
「大喜利始めちゃってんじゃん! なんで俺箱を作りたい人になってんだよー」
充里が笑うと、彼女もつられて笑った。うわー、マジでかわいい。
充里は本当に人の懐に入り込むのがうまいな。俺まだひとことも話せてねえんだけど。
「入谷だったら? 名前考えてみてよ」
「入谷?」
「そう、入谷 統基」
と充里が俺を指差すと、彼女が指に導かれるように俺の顔を見た。
びっくりした! 突然目が合って、心臓が盛大にドキッとした。
「入谷……入る谷……」
俺の顔を見ながら考えてる。長い! 長考するな! 何でもいいから答え出して! 何か知らんが胸がドキドキして尋常じゃない量の汗が背中を伝っている。
「何も出ないわね」
出ないんかい! すっげー脱力感……。
「君の名は?」
充里が彼女を指差す。
「
比嘉 叶……。
「へー、悲願が叶うみたいな、いい名前じゃん」
「でしょ」
充里がほめると比嘉が自信満々に笑った。いや、なんで比嘉がドヤってんだよ。名付けたのは親だろ。
「君は? なんて名前?」
比嘉の隣で笑っているお団子頭の子に充里が尋ねる。女の子はニコニコと笑い続けている。
……え? この子、もしかすると耳が聞こえないんだろうか。そういえば、まだひと言も発していないし。人のこと言えんけど。センシティブな問題だろうか?
「
比嘉が声をかけると、
「名前?
と笑顔同様フワフワした声で答えた。
比嘉はすげー早口だけど、この子はすげーゆっくりしゃべるな。話かみ合うんか、このふたり。
この子の声聞いたら、虹色にデコレーションされた綿菓子思い出したわ。テレビで観て充里が食いたいって言いだして、わざわざ買いに行ったけど俺には甘すぎて充里にやった。
「曽羽ちゃん、かわいい~」
充里が曽羽の手を両手で握っている。え?
「俺と付き合ってよ!」
「付き合うの? いいよー」
「いいの?!」
びっくりした! こんなチャラそうなヤツにこんな軽い告白されてOKするの?! この女チョロい! チョロすぎる!
「もー、愛良は……」
と、比嘉は呆れているようだ。
「超かわいい~。ずっと見てられる~」
デカいチャラ男がかわいい女の子の周りを歩きながらなめるように見てる様はもう通報案件なんだけど。
いきなり充里が曽羽に心奪われちゃって、比嘉とふたり取り残された俺はどうすればいいんだ。自然と間を持たせるために、周りを見回してみる。
すると、クラス発表が貼り出されている掲示板の陰からこちらを見ている金髪のゴリラみたいないかつい顔した男と目が合った。充里よりもデカそう。かなり身長あるな、あいつ。
俺と目が合うと、その男は藪から棒ににらみつけてきた。
なんっじゃコイツ! ムカつく!
とっさに思いっきりキル・ユーのポーズを食らわせると、男はギョッとした顔をした。あ、しまった、あんなデカい男にケンカを売ってしまった。
でも大丈夫だろ。俺の近くには比嘉と曽羽がいる。かわいい女子の前で入学式も始まる前からケンカしたい男もいるまい。
にらみつけてくるのを余裕ぶっこいて真っ向勝負とばかりに目線をそらさずにいると、男は校舎へと入って行った。
やっぱりな。このふたりの前でケンカなんてできないよねー。かわいい女子とは、大きくて立派な最強の盾である!
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