一杯目:はじまりのショートケーキ 〜 printemps〜
1.
「
「とってもきれいだなあ」と、お父さんは車を運転しながら。ちらちらと窓の向こうをながめている。だけど、わたしはそんな気には一切なれなくて。「うん」と、適当に返事をする。
たとえば、これが家族旅行だったら。きっとわたしもお父さんみたいに窓から身を乗り出して、その景色を楽しめたんだけど……。
そう、家族旅行だったらどれだけ良かったか。だって、この景色は、この町は、これからわたしが暮らしていく所ーーなんだもん。
小学三年生に進級する春、わたしは突然転校することになった。おばあちゃんと一緒に暮らすことになったからだ。だから、今まで住んでいた東京のマンションから、海沿いにあるこの町に引っ越すことになった。
おばあちゃんはとってもやさしくて、大好きだけど。おばあちゃんの家ーー、つまりはお父さんの実家は、すっごい田舎。一番近くのコンビニまで車で十分はかかるし、ゲームセンターもなければ映画館もない。なーんにもなくて、つまらない町だ。
それだけじゃない。友達だった
そんなことを思っていると、いつの間にかおばあちゃんの家に着いてしまった。
おばあちゃんは、もう七十歳で。去年、一緒に暮らしていたおじいちゃんが亡くなって。一人になっちゃったし、おばあちゃんは足もあまり良くない。だから、そんなおばあちゃんを支えるため、わたしたちは一緒に暮らすことになったの。
おばあちゃんの……、ううん、これからは私の家でもある建物の中に入ると、お昼ご飯に野菜たっぷりの焼きそばを食べて。それから少し休んでいると引っ越し屋さんが来たので、みんなで荷物を家の中へと運んでいった。
時間がたつにつれ、家の中はすっかり段ボールだらけに。お母さんたちは、今度はその箱を一つ一つ開けていき、中に入っていたものを取り出していく。
わたしも新しいわたしの部屋……、二階の突き当たりにある一番奥の部屋に行って、自分の荷物を整理していくけど。中身はほとんど本だから、本棚にしまっていくだけなのですぐに片付いちゃった。
最後に、桃ちゃんたちからもらった写真立てをーー、中には三人で撮った写真が入っているものを机の上に置くと、一階に降りて。台所周りを片付けているお母さんの所に行った。
「あら、晶子。片付けは終わったの?」
「うん、終わっちゃった」
「そう。こっちは大丈夫だから、この辺りを散歩して来たら?」
お母さんにそう言われ、わたしはあまり気が乗らなかったけど。家の中にいてもいやなことばかり考えちゃいそうだから気晴らしに、お気に入りのさくら色のカーディガンを羽織って出かけることにした。
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