魔人VS勇者-3
「アルテさん!!」
駆けつけようとしたリーフを「来るな」と制して、アルテはレンから目を離さない。
「こいつは殺しても過去に逃げちまうし、他にも色んなスキルを持ってる。危ねえから近づくな。どうすっかな……こいつが最長どれくらいまで過去に戻れるのか分かんねえ以上、自決も阻止しねえと。とりあえず両手両足切り落として
ヒッ、ヒィッ、と潰れた虫のような声でレンが悲鳴を上げた。
「その人の【
「なっ!? なんでお前が知って……!?」
レンの反応が、【全知の手】で知り得た情報の
「じゃあたとえば、絶対逃げられねーように縛った上で、たっぷり1分放置してから殺せば、こいつは無限に死に続けることになるわけだな」
「ヒァ……ッ!?」
レンは体中の穴という穴から液体を垂れ流して情けなく縮み上がった。こういうことには頭の回る
「どうする?
えぐすぎるって。
だが実際、この男を野放しにしておくことはできない。次戦って勝てる保証はまったくないし、かと言って、無力化する方法も浮かばない。レンは毒が効かないし、【水中呼吸】スキルを持っているのでアルテの案も無効。【縄抜け】スキルがあるので縛ることもできない。
「この人には【完全対応】というスキルで二度同じ攻撃が効きません。ただ、ある攻撃で絶命した場合は、【無限再起】でその攻撃を食らう"前"に戻ることになるのでノーカウントです。その証拠にこの人は、必中のタイミングの技を何度も"避けている"。殺さず四肢を切断するなら、4種の異なる攻撃で斬り落とす必要があります。今後のことを考えて、なるべく普段使わない武器で斬るのがいいかと」
「なんでお前がそんなに詳しいんだよぉ!? オレのスキルだぞ!?」
「うーん、めんどくせえな。手順間違うと逃しそうだ」
「頭のいいオト君が来てくれるのを待ちましょうか」
「そうだな」
話し合う二人に、レンは自分にろくな未来が待ち受けていないことを悟ったのか、顔をぐちゃぐちゃにしてその場に土下座した。
「ごっ、ごめんなさいごめんなさい! オレが調子に乗ってました! 許してください!」
「は? 許すわけねーだろ。あたしだけならまだ水に流してやれるが……お前、終わったよ」
氷の眼差しでアルテが吐き捨てる。それでもレンは諦めず、しゃあしゃあと弁を並べた。
「しっ、仕方なかったんだ! 最初は本当に、ただリーフを勧誘するだけのつもりだったんだよ! ユイの【
彼の言葉通り、ユイは「あれ?」と普段の目つきに戻って、記憶をなくしたようにキョロキョロあたりを見回していた。
「アルテに、リーフ君? 私どうしてこんなところにいるんだっけ?」
「リーフ、ユイを安全なところへ」
「は、はいっ!」
リーフはユイに駆け寄ると、彼女の手を取ってレンから離れるように走った。その間にもレンの舌は回り続ける。
「今日アルテに負けて、オレ目が覚めたよ……もう絶対、この力は世界を救うためだけに使う。リーフたち魔族を殺さないで済む、そんな世界の救い方を考える! オレだって……ただのコーコーセーだったんだぜ……間違えちまうこともあるけどさ……でも、世界を救ってやろうって気概だけはマジだったんだ! こんなオレでも誰かの役に立てるならって、最初はホントに楽しかったんだ! ここから、初心を取り戻して頑張るから……チャンスをくれよ……この通りだ……頼むよ……!」
大泣きしながら顔を地面にこすりつけるレンに、リーフは自分の心が強い力に引っ張り込まれていくのを感じた。レンの発する言葉、一つ一つが、脳内で直接響くみたいに拡大される感覚。
そうだ。どんな人間だって間違えることくらいある。ティアもそう言っていた。正しく生きるチャンスを与えず、殺してしまうのは、そっちのほうが間違っている。
レンはついに、自分の剣をアルテの足元へ放り捨てた。敵意がないことを示している。アルテも、氷の仮面のようだった表情を少しずつ溶かしていた。
「信じてくれ……オレに、挽回させてくれ……」
アルテは一つ、はぁ、とため息をついて、大股でレンの剣をまたぎ、うずくまるレンに近づいた。
「今回だけだぞ」
「ぁ……ぁぁ……ありがとう……!」
リーフが、ただ一人、正気に戻れたのは、【全知の手】でレンの所持スキルすべてを知っていたからだろうか。
【交渉人】――自身の発言に、無根拠かつ絶対的な説得力と信頼を付加するエクストラスキル。
アルテの背後で、転がっていたレンの剣が、ひとりでにフワリと浮き上がって、その剣先をアルテの無防備な背中に向けた。悲鳴を上げる間もなかった。
「アルテさ――」
さすがの危機察知能力でアルテが振り返ったが、遅すぎた。アルテはレンの言葉を完全に信じてしまっていた。リーフと出会う前の彼女なら、これほど強力にレンの術にかかることはなかったかもしれない。
カハァ……――と、地面に顔をこすりつけていたレンの口が、三日月型につり上がった。
高速で飛来した
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