オト-2
アヒャヒャヒャ、と、壊れた笛みたいな声でルシエールは笑い転げた。
「健気な友情だ! やはり貧乏人は他者に依存しなければ生きていけない!」
「なんだよ、羨ましいのか? アンタのお友達は、自分放ったらかして女はべらすクソ野郎ひとりだけだもんな」
笑みを消し、不愉快げに目を細めたルシエールの口角が、狂気的に歪む。
「楽に死ねると思うなよ、粗大ゴミィ!!」
「どうしたお坊ちゃん、今日は調子が悪いのか?」
オトの杖が、ルシエール
「なっ……まぐれで一発防いだだけで図に乗るなァ!! 格の違いを見せてやる!!」
目にも留まらぬ乱舞がオトの小さな体に殺到する。間違いなく超一流の武。洗練された速く重い殴打だ。――それら全て、
「あ、あり得ない……私は名家ユーツベルクの長男だぞォッ!!? 物心つくより前から武術を習ってきた!! 魔法を奪われた魔導師に、武で遅れをとるなど、決して……!!」
「【剣才】Lev.10――それが俺の、持って生まれた《
手首を返し、殴打を叩き伏せた反動で繰り出したオトの一閃が、ピタリとルシエールの喉元に突き立った。
「ひっ、ひ……!?」
「ホントは剣士になりたかったよ。けど、剣士同士は、同じパーティーに入れないからな」
――俺が冒険者を目指そうと思った頃には、一つ年上のアルテはもういっぱしの剣士になってた。だったら俺は、アルテを援護してやれる魔導師になろうって思った。そんだけだよ。
――大変だったんだぜ。俺、魔法の才能なんてまったくなかったんだから。
かつて、なぜ魔導師になったのかと尋ねたリーフに、オトが言っていたことを思い出した。
音速の突きがルシエールの胸元を貫いた。「グエッ!?」と
「おら、どうした。見せてくれよ、格の違い。杖ってのはなぁ、こうやって振るうんだぜお坊ちゃん」
まるでリーフが受けた痛みを倍にして返すと言わんばかりに、オトは一方的にルシエールを叩きのめした。無惨に顔を腫らしたルシエールが、悲鳴混じりに叫んだ。
「かっ、解除!!」
空を覆っていた銀色の結界が、パリンと砕け散って降り注ぐ。ルシエールは小動物のように距離を取り、金髪をボサボサに振り乱して叫んだ。
「ひっ、卑怯だぞ庶民風情が!! 魔導師なら魔導師らしく、魔法で戦わんかぁ!!」
「はぁ。いいけど」
オトは呆れた顔で笑った。
「【火魔法】No.58――【
ツバを飛ばしながら叫んだルシエールの杖から、鮮烈な赤い光が迸って、虚空に巨大な魔法陣が描かれる。そこから
【破壊魔法】で消し飛ばそうとしたリーフに、オトは「いいから、自分の体治してろ」と言い捨てて、ルシエールの射線上真正面に仁王立ちした。
「最高難度、最高火力の【火魔法】か。すげえ魔力だ、羨ましいぜ」
「死ねええええええええッ!!」
絶叫が引き金となり、魔法陣から紅蓮の炎が噴火した。爆熱の
「【風魔法】No.11――【
優しいグリーンの閃光が
「ば…………ばかなァ……なぜ……」
「【
「ふざけるな……【
「庶民の知恵ってやつだよ」
リーフの目に、ここに至るまでのオトの姿が浮かぶようだった。
圧倒的な剣の才能を神に与えられながら、オトは魔導師になってアルテを支える道を選んだ。
学校にもいけない、本も買えない極貧の環境で、オトが魔導師として冒険者になることが、どれほど険しい道のりだったか。
それでも、アルテからもらった分厚い魔導書を、何周読破しても飽きることなく読みふけっていたオトの横顔を思い出せば分かる。彼は魔法が、大好きなのだと。
「認めない……認めないぞ!! この私が、ゴミ箱の街の住民に負けるなど!!」
「あっそ」
オトは自身にかけた【
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