勇者-1
初めての一人ぼっちじゃない夜は、少しそわそわするような、安心するような、変な感じだった。朝起きて、寝ぼけた顔のオトと「おはよう」を交わすと、ますます胸がほわほわした。
「おはよー二人とも! さっさと支度しろ!」
二人して部屋から出て食堂に向かうと、朝から元気いっぱいのアルテとばったり出くわした。
「おはようございますアルテさん。支度とは?」
「決まってんだろ、クエストに出発するんだよ!」
話が読めないリーフと対照的に、オトは目を輝かせた。
「俺も一緒に行っていいのか!?」
「パーティー組むって、昨日約束しただろ」
オトは顔をホクホクさせて、小さくアルテに見えないようにガッツポーズしていた。
「行ってらっしゃいふたりとも。気をつけてね」
「何いってんだ? お前も早く支度しろ」
「へ?」
きょとんとしたリーフに、アルテは呆れた顔で言った。
「新生アルテ隊の
――かくして。
リーフはアルテたちと初めてのクエストに出かけた。ゼネラルギルドの
『スライム50匹駆除』『ゴブリンの群れ
魔族は確かに人間を見境なく襲うようにつくられているから、人間から見れば害獣以外のなにものでもない。でも……殺す以外の方法はないんだろうか。それに、駆除とか、討伐とか、そういう言い方は、なんだかすごくいやだ。
「少し前にな、この国にナオっていう女の冒険者がいたんだ。強くて、優しくて、教科書にも載ってる人だよ」
掲示板の前で言葉を失っていたリーフの隣に、オトがやってきて、唐突にそんな話をしてきた。
「その人、ある日人里近くにナワバリを張ってた
魔族と人間が、言葉を交わして約束し、互いに別々の場所で暮らす――それはリーフの思い描く理想の話だった。「素敵な話だね」と言いかけて、やめた。オトの話には続きがあったから。
「その日の夜、人里に子連れのワーウルフが降りてきて、人間を襲った。緊急クエストの報を受けてナオが駆けつけたときには、そのワーウルフはもういなかった。100人近く住んでた村は全滅。ただ、一組の親子だけが、当てつけみたいに無傷で生かされて、震えてたそうだ」
言葉が、何一つ出なかった。
「ナオは、その親子に恨まれ、国中からも責任を問われて、精神を病んで死んじまった。冒険者学校の教科書にはナオの話が載ってる。『魔族は必ず殺せ』っていう
そこまで言って、オトは「気を悪くするなよ」とリーフを気遣った。
「魔族のお前にこの話をするべきか、迷ったけど。俺はやっぱ言うべきだと思った。リーフやギギのことは信じてるよ。昨日帰って、グラウンドでロックゴーレムがチビたちと遊んでんの見たときは背筋凍ったけどな……。……これからも、人間は魔族を殺すぜ。そうしなきゃ、自分たちが危ねえんだ」
そっか。ありがとう。リーフはどうにかつぶやいた。中途半端にかわさず、向き合ってくれたオトの優しさに感謝した。
「僕、決めたよ」
「ん? なにを」
「人間と魔族が殺し合わなくていい世界を――
オトが絶句し、ずっと口を挟まず聞いていたアルテは、少しだけ笑った。
「いや、いやいや……それが無理だって話をしたんだろうが」
「今まで無理だった理由なら分かったよ。これから先も無理かどうかは、やってみなきゃ分かんないじゃん」
オトは頭痛を覚えたみたいに顔をしかめた。
「どうしても、殺して解決だけは気にくわないんだ。命は治せない。治せるものなら、取り返しがつくんだよ。ティアさんが言ってくれたんだ、間違ってもいいって。一人じゃ正しくあれないから
「いいね、乗った」
アルテがリーフの肩に手を置いた。
「なんせ、現にあたしたちは仲良くなれたからな。リーフのおかげで変わった考え方もある」
「僕もです」
「あたしら三人が組めば、なんでもできそうじゃねえか。オト、お前もそう思うだろ?」
オトはうぅんと難しい顔でうなった。
「そこはスパッとうなずけよー」
「うるせぇ、俺はリーフみたいに真っ直ぐでも、アルテみたいに楽観的でもないんだよ!」
「あたしらだけじゃ突っ走って盛大にコケちまうだろうが。ひねくれててネガティブなやつが一人いたほうがいい」
「そこまで言ってねえだろ!?」
「頭のいいオトがいてくれなきゃ、僕らなにから始めていいかわかんないよ」
「それな」
「無策かよ!? マジで頭痛くなってきた!」
あぁ、わかったよ、とオトはヤケになった顔で言った。
「やるよ、俺も。世界まるごと変えるってんなら色んな魔法が必要だろうが」
「オト!」
「そのかわり、わかってんだろうな? もしそんな世界つくっちまったら、俺たちみんなニートだぜ。冒険者が戦わないでよくなるんだからな。そのあとのこともちゃんと考えてんのかよ」
「あー……そうだな。どうっすっかなぁ」
「そのときは、みんなでお店でも開きましょう!」
「おっ、いいなそれ!」
のんきに盛り上がるリーフとアルテに、オトもため息をつきながら笑った。
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