破壊と創造-3
アルテの膝に顔をうずめながら、リーフは、《剣聖》と呼ばれる少女の住む家とはどんなものだろうと想像した。
一定のランクに到達した冒険者は、それなりに裕福な暮らしができると聞いたことがある。アルテは最上位の冒険者の証である
大きくて、広い庭があって、使用人がたくさん住んでいて……なんだかわくわくしてくる。
「ついたぞー」
アルテの声が頭上から降ってきて、顔を上げたリーフは目を見張った。アルテの家は、リーフの想像を遥かに上回っていたのだ。
悪い意味で。
「えっ……と」
確かに大きな家だった。一般的な一軒家の数十倍はある。風が吹けば飛びそうなボロボロの
広い庭もある。砂ばかりの荒れたグラウンドだが。そのグラウンドで、十人あまりの小さな子どもたちが元気に走り回っていた。5歳から、一番年長の子でも10歳くらいだろうか。泥まみれになった彼らの衣服はどれもみすぼらしく、破れ目を
あたりは森に囲まれて静まり返り、先ほどの街の活気が嘘のようだった。ここにはあの家と、子どもたちしかいない。家というより、あれは――
「孤児院だよ」と、心を読んだようにアルテが言った。
「あたしはココ育ちなんだ。今年十六になるから、もう出なきゃいけない
魔族は寿命がないので、あまり年齢を気にしないが、リーフは自分の誕生日と年齢を正確に覚えていた。今年の秋に十七歳になる。年上のように感じていたアルテが一つ年下だったことに、少し驚いた。
「あっ、アルテだー!」
「お姉ちゃんお帰りー!」
「そのでっかいひとなにー?」
気づけば、ギギの肩に乗ったアルテとリーフはわらわらと群がった子どもたちに囲まれていた。慌てて顔を隠そうとしたリーフを「大丈夫だ」と止めて、アルテは軽やかにギギの上から飛び降りる。
「ただいま。お前らいい子にしてたか?」
「してたー!」と声を揃える子どもたちの頭を順番になでるアルテは、よき姉の顔をしていた。初対面のときから感じていた、彼女の妙な頼もしさというか、包み込むような安心感の由来を見た気がした。
「アルテー、ぼーけんの話してー」
「おういいぜ。でもちょっとだけ待っててくれ。トモダチを二人連れてきたんだ」
「アルテのともだちー!?」
わきゃーっと色めきだった子どもたちの視線が、一斉にリーフとギギに集まる。二人して顔を隠し、身構えるも、子どもたちが
「お兄ちゃんたち、なんてなまえー?」
「おっきいのがギギ、ちっちゃいのがリーフだ」
「ギギつよそー!」
『ギィ!?』
わんぱくな少年がギギの足に抱きつき、そこから一気に子どもたちがギギの体に殺到した。子どもをうっかり踏み潰さないようにと、ギギはカチコチに硬直して動けなくなってしまう。
大人気のギギと正反対に、誰もリーフには興味を示さなかった。リーフは少しへこんだ。
「じゃーギギはちょっとチビたちの相手頼むわ。リーフ、あたしの部屋へいこうぜ」
「あっ、はい!」
『ギ!? ギー! ギーーーーーー……!』
リーフはギギから飛び降りて、アルテのあとを追いかけた。手を伸ばして助けを求めるギギの声が遠ざかっていく。古ぼけた木造の建物に入って、
「騒がしくて悪いな」
「いえ、それは全然……」
「あいつら、外の世界を見たことないから、見た目じゃ魔族なんて分かんねーんだよ。魔族がこわいものだってことにもピンときてない。だから、仲良くしてやってくれ」
リーフは、実感のわかないままどうにかうなずいた。人間は子どもだろうと大人だろうと、無条件に魔族を憎んでいると思っていた。魔族が、そうだからだ。
「人間の子どもは、みんなそうなんですか?」
「いや、どの家も親が一生懸命言って聞かすもんだぜ。夜に口笛吹くと魔族が食べにくるとか、川に近づくと魔物に引きずり込まれるとか。子どもがあぶねー真似しないようにな。だから、だいたいの子どもは魔族を怖がってる。ウチの子たちは、この孤児院より外に出ることがないからな。特別だよ」
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