3月27日 ~A氏の手記より抜粋~

3月27日? 便宜上4日目


 相変わらず何も変化がない。寝て起きてを4回やったから多分27日。日付の自信なんてない。特に空腹もないし、喉も渇いてないけどなんとなく落ち着かないから食事にしようかと思ったけど、なかった。全部、ゴミ。ペットボトルはおしっこがつまっている。間違えて飲みそうになった。いい加減、覚悟を決めないといけないかもしれない。


 リビングくらいはいかないと。でも開けられない。震えるから。震え。震えなら大丈夫? だって、震えているのは自分の責任。だったら、いける? いってきます。これが最後になりませんように。














 顔がなかった。それには顔がなかった。黒くてぬめらぬめらしていて、触手みたいだった、塊、束、そう、そう触手の束の顔。顔、無貌。おもいだしちゃだめしらないしらない


 何があったかまとめる。落ち着くためにまとめる。


 リビングに出るとゴミ袋の山だった。とってもくさい。俺の記憶が正しければ、分別せずに色々とつめたはずだから、生ゴミが混じっているかもしれない。というか、におい的にそう。それはいい。いいんだ。ちょうど角がなくなるように配置されていたから、多分、猟犬はこない。猟犬? 何それ。きっと、変なの見たからだ。なんか、頭がおかしい感じ。知らないことを知っているみたいな。思い出すことなんてないし。もういい。知っているはずがないんだ。知ってはいけないんだから。忘れたはず。忘れたんだよ、もう。それで、ゴミ袋を見ているとピンポンが鳴った。びっくりしてこけた。やっぱりくさかった。ピンポンはそれでも鳴ってた。めっっっっっちゃ。鳴ってた。


 ピンポン鳴るってことは、世界はあるって、少しだけ明るくなれた。けど。

 出るのは怖いから、ドアスコープから見た。見ちゃったんだ。アイツ。いつもの。いつもの? 知らないよ。あんな化け物。


 アレは人間じゃない。おぞましい何か。宅急便の緑の帽子を被っていたけど、俺は騙されないぞ。黒い触手の頭。ひし形に空いた大きな口。赤い赤い舌。俺を嘲笑うように頭をゆらしていた。


 何もいなかった。今のは全部嘘だ。悪い夢。何も見なかった、何も見なかった。アイツのことなんて知らない。ろくなことにならないから知らない。何も見なかった。何も見なかった。今日は一日布団でツブヤイター見てた。変わらなかった。以上。

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