第48話 突入【その参】

終業式


絢斗side


いよいよ夏休み突入だな!



と、本来なら大喜びしていたはずなんだけど残念ながら俺に自由は無いようだ。

ストレス発散に身体を動かしたくてマンションのプールを午後から予約していたんだが…


「あまりジロジロ見ないでもらえるかしら?」


俺の前にはなぜか白いワンピースの水着を着た樹里がいる。


終業式が終わり帰宅するとちょうど樹里も戻った所でこれから明日の用意をすると。

「俺はストレス発散に泳いでからかな」

と、つい口が滑り

「水泳は好きなのよ。」

と聞いてもいない事を言われついて来たというわけなんだが


しかし…

「綺麗だな」

「な、何を言うのよ…」カァァァァ…

ぷいと視線を逸らせスタスタと先に行ってしまった。


本当に綺麗なんだよなぁ。


小さな顔にいつも伏し目がちな大きな瞳にプルっとしていそうでいて薄い唇

腰まで伸びた濡れ羽色の髪

大きくは無いがふっくらとボリュームのある胸から流れるような凹凸を描いたボディライン

スラリと伸びた足は引き締まっているがすじばってはいない太腿にキュッと細い足首


トータルバランスというか…

素晴らしく綺麗なんだ。


ん?カメラ設置してる?

泳ぎのフォームの研究かな?

いや、前もあったな。

イラストに使う資料って言ってたような。

なるほど、このマンションに設置された施設を撮ってるのかもだな。


うん、真面目にカメラの角度とか調整してる。

丁度プールを挟んで対角線上にセットしているので全体が見渡せるわけか。

ホントにイラストと向き合ってるんだ…

俺も見習わないとな!


※たぶん違います。


しかしあのポーズはそそられ…


ダメだ…余計に…

泳いで発散しよ。


~~~~~~~~~~~~~~


檸檬side

いよいよ明日からだわ。

モデルの仕事か…

男の子の前で水着とか有り得ないと思っていたけれど絢斗なら…


開く意味のわからない式が終わりマンションに戻る。

部屋に入ろうとすると向かいのドアが開いた。


「お?今帰り?おかえりよ~」

「ええ、た、ただいま。」


絢斗におかえりって言われるのはなんだかムズムズするわ。


「明日の準備は終わった?」

「後少しよ。これから終わらせるわ」

「そっか、俺はストレス発散に泳いでからかな」


たしかこのマンションにはプールがあったのよね。

「待ちなさい。私も泳ぐわ。」


ど、どうしましょう?

勢いで行くとは言ってみたものの

良く考えればみ、水着…


絢斗と2人きりになれるタイミングってなかなか無いからチャンスは確実に掴んでおきたいのだけれど…


は、恥ずかしくなってきたわ。

いけない、用意しなくては。

水着、学校のスク水…違う!

絢斗に少しでも綺麗に見られたい…


今年母に買ってもらって一度も着ていないものがあるのだけど、でもアレは…

わかっているわ。

私に白なんて似合わない。

こんな根暗な女が白なんて。


去年のモノはデザインも少々子供っぽいし、サイズが…

忌々しいわね!この胸は!

なんで大きくなるのよ!

お尻も!

今から下僕に…ダメね。

自分で買いに…無理ね。


覚悟を決めるしかないわ。

樹里、頑張りなさい!


よし、行くわ!


更衣室から出ると絢人が待っていてくれた。


あ、優しい…


でも絢斗の視線が…

は、恥ずかしいわ

くぅぅぅぅ…

が、が、我慢よ!私は柚子檸檬、檸檬ママなのよ!あーと相手にこれくらい耐えられなくてどうするの!


※関係ありません。


明日から水着の撮影もあるというし今からこんな調子じゃ保たないわ!


でも…

きっと白なんて似合わないと思われているわ。

やっぱり来なきゃよかった…


「綺麗だな」

は?え?待って!

綺麗って

綺麗って言った…

綺麗って言ってくれた!


「な、何を言うのよ…」

ううううぅぅぅぅぅっっっ!!

もぉ!もぉぉぉぉっっ!!

無理ぃぃぃぃ!


その場の空気に耐えられなくて逃げちゃった…

せっかく2人っきりで

しかも誉めてくれているのに。


どうしよう


そうだわ、まずはカメラをセットしなくては!

男性の身体を…絢斗の…

資料よ!これは作品の為の行為よ!


三脚にカメラを取り付けセットする。

カメラのモニター越しに絢斗が準備運動してる、かわいい♪


はっ!?

違うのよ!何を考えているの?私は!

資料、資料、資料、資料、資料…


絢斗がTシャツを脱いで…


凄い。

なに?何なのあの身体は??

大きな体格に無駄の無いシルエット。機能的に動くことのみを追及したかのような鍛えられた筋肉。

あなたの人生にその身体は必要無いはずよ!?

顔と声だけでも凄いのに身体までだなんて…


あの逞しい腕で抱きしめられたら…


はっ!?いけないわ!

また妄想の世界が!!


資料よ!資料なのよぉ!!


パンパンっと頬を軽く叩き冷静を装う。

とにかく泳いで発散させましょう。

今はそれしか出来そうにないもの。



~~~~~~~~~~~~~~



???side

明日からの準備も終わったし身体のケアも完璧。

行き先が変更になって随分と荷物が減ったのは助かったわ。

まあ、一緒に行くメンバーが増えたのは気に入らないけど叔父さんの決定だから仕方ないかな。


やっと会えるんだ。

あの人に。


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