夜明けが終わる音

 石黒斜夏いしぐろはすかが死んだ。

 交通事故に遭い、亡くなった。

 それだけ見れば、ありふれたニュースの一編にすら思えるだろう。しかし、彼は特別になる筈の者だった。

 彼は世界を救うヒーローだ。

 本来は、物語の主役を務め、その正義感で様々な可能性を切り開くことができた。

 だが、今や彼は全ての狭間に取り残され、どこにも行けないでいた。川を渡り、神と崇められる者にさえもまみえない。

 彼は、自分の意思で後悔していたのだ。

 足は動かない。魂は振り返り、置いてきてしまった世界だけを見つめている。

 斜夏には、何よりも大切な家族がいるのだ。


仄華ほのか……』


 妹の名前を呼んでも、届かない。届く筈がない。


『……分かってるんだ』


 それでも。

 分かりたく、ない。


『行かなきゃ……でも……』


 本音を言えば、戻りたい。

 だが、戻るという選択肢は、最早無くなってしまった。

 あるのは斜夏の、後悔というエゴだけだった。


 ──諦めの悪い男だ。


『……?』


 ──私? 宿命だよ。君が宿命から抗いたがっていたから来たんだ。でもね、無駄だよ。


 これは誰も救えない話だ。

 斜夏の物語は、ここで終わる。

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