から揚げデー(21回目)

Planet_Rana

★から揚げデー(21回目)


 本日は、人生で21回目のから揚げデーである!!


 まずは胸肉を用意して合計21欠片になるよう切り分ける。一口サイズのサイコロのようになったが問題ない。フォークでぐさぐさ穴を開けたら、二斤袋に7個づつ分け、塩、タレ、ゆず胡椒に漬けて置く。


 待つこと一時間ほどあるので、百均で購入したミニ蝋燭を21本選ぶ。50本の中から選りすぐった蝋燭を嬉々として小皿にのせ並べ、うきうきと衣の用意に取り掛かる。


 小麦粉と片栗粉。しっとりとしたいなら小麦粉を多く、揚げたてパリパリを望むなら片栗粉を多めにしようとネットに書かれているので片栗粉を多めに配分した。


 さて。あとは衣をつけて揚げるだけだがそれ以外にやることがない。どうしたものか。


「ねぇ、何か面白い話とかなぁい? ……面白い話って言ったって君が知らない話はできないよ? ……あー、うん。そうか、そうだったね」


 一人で会話を済ませ、自問する。何か、時間を潰せる話題はないものか。


「魚って好きだっけ? ……好きだった様な気がするね。それがどうかした? ……そうそう、最近ね、大きな魚のかしらから目を抜いたやつが良く売ってるの。目玉のばら売り。興味ある?」


 問いかけに応じる影はないが、また口を開く。


「……興味はあるけど、高いんじゃないの? ……アラになる部分だからなのかな、安かったよ。生活費に響かないぐらいには! ……んー、でもなぁ。魚の目ってぐにぐにしたあれでしょ? ……そだよ? ……歯ごたえ悪そう」


 うえ。と、顔を歪めて喉を抑えた。フライパンに引いた油が、空気を含んでぷつぷつ言っている。


「あとさ、その大きな魚ってマグロじゃない? ……そうだよ? ……マグロだったら、普通に赤身が食べたい。焼きで! ……マグロステーキかぁ、物好きだなぁ」


 目玉も負けず劣らず、美味しそうな食材だとは思うんだけどねー。と呟きながら、から揚げを漬け始めた時間と今の時刻を照らし合わせる。問当をするうちに15分は過ぎた様だ。


「……んー。物好きはどちらなんだか」


 退屈そうに時計から目を逸らし、小麦粉と片栗粉を混ぜて作った特性から揚げ粉を、バットの上に広げていく。から揚げが楽しみ過ぎて急いている気もしたが、できる作業は今の内にしていた方が良いと思ったのだ。


「……準備、早すぎないかな? ……肉を出してからだともたつくでしょ。やって置くから脳内時計でも数えててよ。……あっ、30分たった! もうそろそろいいんじゃない?」


 粉を広げていた指先が止まり、水道の蛇口で手が濯がれていく。


「……あともうちょっとで広げ終わったのに……。……ごめんごめん、でも、60分なんて待てないよ。さっさと揚げよう! ……食い意地が張っているんだか、面倒臭がりなのか」


 呆れたように呟いた後、目を爛々と輝かせて俊敏に、冷蔵庫のノブをひく。塩とタレとゆず胡椒。芯までは漬かっていないだろうが、あれだけフォークで刺した後だ、下準備をしないよりはしたということで、今回は妥協しよう。


 油に火を入れ、肉に衣をつけていく。揚げる順番は塩、ゆず胡椒、タレ。


「味が濃いのが最後なんだよね? ……本当は全部違う鍋で揚げたいけど、家だからね。そうだよ、味が薄い順に揚げるの」


 塩だれに漬けた肉が、熱された油鍋に投入された。

 じゅわじゅわじゅわぱちぱちぱち、ちちちちちちぱちちちちちちち。


「さては、片栗粉の量多くしたな!? ……うん、竜田揚げ好きだし! ……私は小麦粉のやつが好きなんだけどな。今度作る時はそれでいい?」


 返答が沈黙として帰って来た。どうやらこの竜田好きは小麦粉衣系から揚げのことがあまり好きではないようだ。


「……昔食べた弁当を思い出すから、嫌」


 パリパリサクサクに揚がったから揚げを掬い上げ、キッチンペーパーを敷いた皿に並べていく。


「……そっか。嫌か。じゃあそっちが寝てる時にでも食べることにする」


 次のから揚げを投入し、唇が言葉を紡ぐ。


「……そうして。あ、でも食べ過ぎは駄目だよ。太るから! ……そこはほら、もう子どもじゃないんだからさぁ。21回も一緒に居れば流石にね、分かるよ」


 そうして他愛ないやり取りをしつつ、揚がったそれに一本一本蝋燭を刺していく。


 アイスピックで穴を開けて、刺す。穴を開けて、刺す。あんなにきれいに揚がった衣に傷をつけて、刺し込む。


「……ん! できた! 今年の誕生日ケーキがわり!」


 大皿に盛られたから揚げ21個に、それぞれ蝋燭が立っている異様な光景。台所を片付けて後に箸を一膳用意して、一つ一つに丁寧に火を点けるとぽわんと明るくなった。


 燃え上がる蝋燭から発生した水蒸気が、寧ろ臭い。

 どーどれーどーふぁーみー。どーどれーどーそーふぁー。


「……煙い。吹くよ」


 ふうっ。


 流石に一呼吸では消しきれず、3回ぐらい息を吹きかけて鎮火した。火をつけて、消す。これだけの行為だが実際にやってみれば、やはり誕生日を迎えた気になるものである。


「……じゃあ、食べようか! ……ん。食べます」


 手を合わせて、頂きますを言った。蝋燭を銀紙にとって、一番手前にある塩だれのから揚げを口に入れる。


 がりゅっ。


 うん。貴方って人は、やっぱり美味しいな!




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