21回目の

それぞれの21回目


―――


「21回目の誕生日、おめでとう!」

「ちょっとお母さん。あたし、二十歳だよ?間違ってるよ。」

「産まれた時を一回目って数えるのよ。そうすれば今日が21回目の誕生日でしょう?」

 そう言ってお母さんは目尻に皺を作って微笑んだ。むきになって訂正しようとしたあたしはお母さんの言葉を聞いて、『なるほどな。』と思い直す。そういう考え方もあるのだと。


「それじゃあケーキ食べましょうか。」

「うん!」

 ケーキを切り分けるお母さんの手元を見ながら、笑顔が止まらなかった。




―――


「ほら。」

「何これ?」

 無造作に渡されたリボンのついた箱をまじまじと見つめる私。彼はそっぽを向きながら鼻の頭をかく。それは彼が本気で照れた時の癖だ。

 私はそんな彼と箱を交互に見ながら、何でこんなものを貰うのか全然思いつかないでいた。


「……って、もしかして忘れてんのか?今日が何の日か。」

「え、何の日かって……?ええと……何の日だっけ?」

「はぁ~……」

 彼は盛大に溜め息をつくと、早口で捲し立てた。


「今日は21回目の結婚記念日だろうが!去年は俺が忘れてたら凄い怒ってたくせに……」

「あ……」

 慌ててカレンダーを見ると、インクの切れかけた黒いマジックで今日の日付に丸がついていた。覚えがないから彼がつけたのだろう。


「ふふっ……去年怒られたから今年は忘れないようにしたのね。そんなに恐かったかしら。」

「あぁ。次も忘れたら承知しないわよって言われたよ。つぅか、それも忘れてたのかよ……」

「あはは。ごめんね。……でも、ありがとう。覚えててくれて。」

「……おう。」


 私が箱を胸に抱いて笑いかけると、また鼻の頭をかいた。


「22回目もよろしくね。」

 彼はもう何も言わなかったけど、きっと来年のカレンダーにも印をつけてくれるんだろう。彼はそういう人だ。そしてそんな彼と21年を共に生きてこられて本当に良かったと思った。




―――


「久しぶり!って言ってもあんまり変わってないね、君は。」

「当たり前だろ。一年じゃ、変わる方が珍しい。でもお前は本当に変わったな。ビックリしたよ。」

「ははは。ストレス太りかな。」

 そう言って親友は自分の腹を撫でた。俺はそれを見て笑う。


 今日は21回目の同窓会。俺達の学年はクラス関係なく仲が良く、毎年同窓会が開かれている。ほとんど全員が参加していてしかも毎年だから代わり映えしないのだが、今年はストレス太りで見た目が変わってしまった親友がいた。


「本当にストレス太りか?噂で聞いたぞ。もうすぐ結婚だって?幸せ太りじゃないのか?」

「誰から聞いたんだよ~」

 迷惑そうな顔をしながらも頬が緩んでいる。俺は内心羨ましいな、このやろーと思いながらその出っ張った腹を小突いてやった。




―――


「今年もこの日がきましたね。最近ここまで来る坂道を登るのも大変になってきたんですよ。足は縺れるし、腰は痛いし……でも一年に一度の今日だけは、ここに来るって決めているので痛みには負けていられません。」

 腰の少し曲がったお婆さんが、そう言って苦笑する。手には桶と柄杓を持っていて、ピカピカに磨かれた墓石に静かに水をかけていた。


「今年で21年。一人で生きてきましたが、そろそろ私もそっちの世界に行きたいと思っているんですよ。でも貴方からのお迎えが来ないので、まだ生きていいという事なのでしょう。あちこちガタがきていますが、気持ちはまだまだ元気でいたいものです。」

 お婆さんは線香に火をつけると、そっと両手を合わせた。


「また、来年来ますね。その時まで足腰鍛えておきますから。ここに来れなくなったら迎えに来て下さい。」

 お婆さんはそう言うと、にっこり笑ってどっこいしょっと立ち上がった。


 ふと風を感じて空を仰ぐ。伸ばした腰は少し痛かったが、もう一年くらいは頑張ろうと思ったのだった。



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