第17話 決着!!レインとエンシェントドラゴン
リアの祈りをよそに、レインはエンシェントドラゴンと対峙していた。
(倒す方法はあるにはある…。多分コイツには
事実レインの魔力は尽きかけていた。
もともと今日もいつもどおり、何も考えずに訓練兼実験名目でガンガン魔法を使って遊んでいたし、ついさっきもエルフの村のど真ん中で、常軌を逸した回復魔法を行使した。
加えて戦いの最中、無属性魔力による身体強化や身を護る風魔法そして超高熱と極低温の魔法もそれぞれ放っている。
通常の魔法使いならば、単体でこれだけの魔法を行使することは当然不可能であり、仮に必要な魔力量を換算すれば、歴戦の宮廷魔術師100人や200人分はくだらないだろう。
『……グハハハ……人の子よ…いや、レインと言ったか…どうやら貴様も後がなさそうだのう…』
かなり疲れた様子で語りかけてくるドラゴン。
貴様
「…そうですね、あなたのおっしゃるとおりです。間もなく僕は魔力切れですよ」
『…グゥハハハ…潔いではないか…』
「まあ隠しても仕方ありませんしね」
俺は肩をすくめて答えた。
なんとなくわかる。
コイツは最初から俺の魔力量を見透かしていたような節があった。
ならばしょうもない隠し立てをするだけ無駄ってもんだ。
『…よくぞここまでやったと褒めてやろう…だがなレインよ…我は負けぬぞ…?』
「…と、言いますと?」
『…我が奥の手…
いやいや、やめてくれよ。
そんな資格を取得した覚えはありませんよ。
けど、そういうわけにはいかないんだろうなぁ…。
しっかし、ドラゴンと言えば、やっぱブレスか。
まあ、いきなりオエッと吐き出さないだけ、マシと考えるべきかな…。
『…む…』
「…ん?」
ドラゴンは何を思ったか、少しだけキョロキョロした後、クレーターの外縁部に沿って歩き始める。
(…こいつ…?)
しかし次の瞬間。
ドスン!!
「ぐっ!」
その歩みを止めた眼前のドラゴンは、強い衝撃を伴いながら、二足歩行から一転、四つん這いの態勢をとる。
そして太く強靭な四肢でもって、体を大地に固定した。
同時にドラゴンはその大きな口を、ゆっくりと開いていく。
欠伸をしてるの?と思える程ゆっくり、しかし大きく大きく開いていく。
まさに奈落へ通じる孔とでも言わんばかりの大きな口。
絶望感さえ漂ってくる気がする。
凄まじい威圧感。
絶対の死の予感。
(…くそっ…まずいな…)
そして大きく開いたドラゴンの口の前辺り。
気が付くとそこに、物凄い勢いで魔力が収束していく。
1層、2層、3層…次々に巨大な魔法陣が顕現し、階層を重ねていく。
(なるほど。エンシェントドラゴンのブレスというのは、物理的・生物学的な力ではなく、ある種の
おっと、考えている場合じゃない。
もたもたしてたら、一瞬でこの世からバイバイだぜ。
こいつはなんとしても防ぎ切らねば。
「はぁぁ…!!」
俺も負けじと気合を入れ、急速に魔力を練り込んでいく。
(イメージはずばり盾、だ。コイツの魔法陣じゃあないが、何層も重ねて凌ぐしかない!)
属性は防御に長けた光一択。
魔力を高め、圧縮。
そして、両手から一気に解き放つ。
パァァァァ…!
次の瞬間、俺の前には幾重にも重なる光の壁が顕れる。
あたかも、人々を守る鉄壁の城塞であるかのように。
(負けねぇぞ…もう諦めるのはやめた!絶対シロと一緒にエリーの所へ帰る…帰って2人でシロをモフってモフってモフりまくる!!)
『…ハハハァ…そうこなくてはな……では…』
次の瞬間。
極限まで収束されたドラゴンの魔力が一気に解き放たれる。
『…くらえぃ!!』
ガカッ!!!
それは攻撃と言うよりも、ある種の災害。
地震、台風、火山の噴火、果ては隕石の飛来…。
ドラゴンのブレスを形容する表現としては、些か似つかわしくないが、概念として、もはやこれは天災。
そう誰もが理解せざるを得ないほどの、極光の奔流。
「ばっち来いやぁ!」
俺も負けていられない!
さらに魔力を練り込み、次々と光の壁を顕現させていく。
ガガガ…ガガガガ……!!
真正面からぶつかり合う護る光と攻める光。
森中に響き渡るような轟音。
しのぎを削る魔力と魔力。
森からは宵闇が消し飛び、中心部は寧ろ日中よりも明るい光に照らし出される。
…だが。
パリン…!
ピシッ…パリィン…!!
「…ぐぐ…くっそおぉ…!」
ピシッ…ピシピシッ…
パリィィン…!!
1枚…また1枚と、次々に光の防壁が散ってゆく。
…ヨヨヨ…1枚…2枚…3枚…やっぱり魔力が足りません…って番町皿屋敷かよ!?
ヤベェ…このままじゃ…。
『…グハハハハハ!…よくぞここまで耐え抜いたものよ…誇るが良いぞ…そして…眠るがよい…!!』
なお一層激しさを増すドラゴンのブレス。
光の防壁もあと僅か。
…くそ!
あいつ、口が開いてるくせにどうやってしゃべってんだよ!
いやいや、今はそれどうでもいいわ。
パリィィィィィン…!!
しょうもないことを考えているうちに、残る光の防壁は1枚のみ。
「…くっそ……魔力が…!」
その時だった。
俺の視界にそれは飛び込んできた。
まるで一陣の風のように。
目頭が熱くなる。
泣いちゃうぞ俺。
だが今はまだその時じゃあないよな?
それは俺の隣に立ち、迫りくる光の奔流に勝るとも劣らない強烈な風の魔力を放出し、猛然とブレスに対抗する。
吹き荒れる風。
暴風というよりも竜巻と形容する方が適切だろう。
「ありがとよ!シロ!!」
『アオーーーーーーン!!』
シロは雄叫びをあげながら、なおも風の魔法を放ち続ける。
『…ぬぐぅ!?…フェンリルめ……いつの世も我の前に立ちはだかるか…』
ドラゴンも見るからに疲弊している。
よく見れば、向こうも幾重にも重なっていた魔法陣が消えかかっている。
あと少し、本当にあと少しなんだ!
…だが…ちくしょう!
もう押し返すだけの魔力が…!
しかし、吹き荒れる風の中。
もう一度だけ。
神様はもう一度だけ俺に奇跡をくれた。
…まあ神様っつってもルーシアなんだけどさ。
「魔力が少しだけ回復してる…?」
『…なにぃぃ…!?』
もはや限界ギリギリのど根性だけでせめぎ合う俺とドラゴンは、全く同時に同じ場所に視線を飛ばす。
その先にいたのはエルフたち。
正確に言えば、エルを中心に据え、整然と立ち並び、何らかの魔法詠唱を行うエルフたちだった。
何かの隊列?を組んで並んでいるようだが、ここからはよくわからない。
ただ言えるのは、エルフたちからエルに。
そしてエルから俺に、魔力が流れ込んで来ているという純然たる事実のみ。
「レイーーーン!!いっけぇーーー!!」
リアは力の限り叫ぶ。
必死に応援してくれている様子が伝わってくる。
「おーーーい、まあつつがなく頼むよーーーー」
エルも叫ぶ。
こっちはなんかむかつくなぁ。
まあいいや。
シロがくれたチャンス。
エルフたちがくれた魔力(一応エル含む)。
「……生かすっきゃあ、ねえよなぁーー!!」
俺は再び身体の中で魔力を練り込む。
使うのは水属性と風属性。
エルフたちから分けてもらった魔力は少ないけど、これだけありゃあ十分さ!
(さぁイメージしろ……どこまでも続く空の上…大きな大きな雲…その中で極小の氷の粒がぶつかり合う…何度も何度もぶつかり合う…)
『…な…何をするつもりだ…?』
(…氷の粒はまだまだ落ちない…上昇気流に乗って何度も何度もぶつかり合うんだ…そうすると…)
…ピリッ…
『…こ…これは……!』
…ビリビリ…
…バチバチバチバチ!!
俺とドラゴンの魔力のぶつかり合いに変化が生じた。
少量ながら魔力を回復させた俺は、なんとドラゴンのブレスを押し返しつつあったのだ。
加えて、光の防壁を顕現させながら、新たな性質の魔力を身体の中で同時に合成、魔法を発動させる。
「あなたの体は固い。正確に言えばその金属に近しいと思われる性質の鱗…まさに全身が鋼鉄と言っても過言ではないでしょう」
『…ま…まさか…これは…天の矢……?』
「けど、それが逆にあなたの弱点でもありましたね……では……!!」
エルフたちに分けてもらった魔力はほぼ使い切ったが、なんとかいけそうだ。
そう思うが早いか、俺は最後の魔力を解き放つ。
『…ま…待てぇ!!…待ってく…』
ここで負けたらバチが当たるってもんだぜ!
主にルーシアの。
「いっけーーーーーーーーー!!」
最後に衝突する2つの極光。
それは辺り一面を白く染め上げる。
音はしばし置き去りに。
文字通り、何もかもが白く塗りつぶされた。
シロもエルフもドラゴンも、そしてレインでさえも真っ白な世界以外何も認識できない。
置き去りにされた轟音が、遅れて地の果てまで響き渡った。
それからどれほど時間が経っただろう。
リアは少しずつ視覚が戻ってきた目を凝らす。
魔力を大幅に吸い取られ、体にはズッシリと疲労感があるが今は気にならない、というか気にしてる場合ではない。
白い靄が少しずつ、少しずつ晴れていく…。
するとそこには。
「…レイン…!!」
黒い煙を体の至る所から立ち昇らせながら、その巨体を大地に横たえたままピクリとも動かないエンシェントドラゴン。
そしてその傍らには、レインに体を擦り付けて大喜びのシロと、そのシロをモフモフするレインの姿があった。
ここに、熾烈を極めたレインとエンシェントドラゴンの戦いは、終結したのだった。
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