有意義な無駄遣い

檸檬

第1話

数人の女子高校生が2折のスカートと2ノットのネクタイをひらつかせながら、アイスを食べ歩きする。途中で先生に見つかりかけて、食べかけアイスを死角に隠して不自然に沈黙し壁際に一列並び歩いていく。教室に着くと受験勉強の息抜きのはずがアイスを肴に軽く30分は盛り上がる。数か月前と変わらない日常を机に散らばる参考書、センター過去問、真っ赤に添削された小論と共に送る非日常。


制服が半袖から長袖に変わるころ、アイス休憩も季節外れになったせいか機会が減り、同じ教室にいる生徒は同じ時を共有しながらも、それぞれの分岐点を迎えつつあった。私は半年近く「シンロ」という言葉とゲシュタルト崩壊気味に睨めっこを続け、ようやく活路を見出していた。しかし、今まで腹で感じて生きてきた私にとって、現実味が薄い未来を言語化し、表現することほどハードルの高いものはない。案の定、相談相手の先生の優しく辛辣な言葉がサクりと心に刺さり目から溢れだしそうになる液体を下唇を強くかんで堰き止める。密かにマスクに感謝した。そんな日の帰り道の夕日はなぜだろうか、嘘みたいに美しく見える。深いローズマリー色の空を見上げながら、嘘みたいな急斜面の下り坂を足の小指が痛くなるのを感じながら下った。


数か月後、そんな非日常から解放されたものの、振り返れば病的に落ち込み、暗い部屋から埃っぽくなって薄グレーに変色した半透明なカーテン越しに見えるグレーな空を空虚に見つめることも少なくなかったと振り返る。束の間の女子高校生ブランドを彼氏も作らずにくだらない話で盛り上がり浪費したと、タピオカをすすりながら愚痴をこぼし卒業を迎えた春の日、薄グレーのカーテンを開けると薄グレーに見えていた空が思いのほか青いことを発見した。

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