麗しの隊長
クロエ視点
今日も隊長は麗しい。艶のある銀髪に切れ長な碧眼で、恐ろしいほどに整った容姿。表情はあまり変わらないけれど、隊長の部下になってもう何十年も経っているから少しの変化でも読み取れるようになった。
「クロエ」
「はい?」
「さっきから視線を感じるけど、何かあった?」
「今日も麗しいなぁ、と」
「……そう」
あ、今きっと呆れてる。書類仕事なんて退屈、と抜け出してきたカミラさんが見回りについて来て、一緒に街を歩いている。今頃エマさん怒ってるんじゃないかな……
「カミラさん、アメリアちゃん元気ですか?」
「うん」
アメリアちゃんの名前を出せば、ふわり、と微笑んで優しい表情をしている。こんなカミラさんを見られる日が来るなんて想像もしていなかった。
カミラさんに番が現れた、と聞いた時には見ず知らずの男にカミラさんが奪われてしまうのか、と焦燥感しか無かったけれど、直ぐに女の子だって聞いて興奮が抑えられなかった。
その後、番の女の子に振られたって聞いて衝撃だったな……だってカミラさんだよ? この顔だよ? もちろん、外見だけじゃなくて中身だって文句なしだし、竜人族の中でもトップクラスの身体能力の持ち主で、地位だってある。欠点が見つからない。あ、愛想はないか。でもそんな所もいい。
許されるなら一日中眺めていたい。朝から晩までカミラさんの一日を眺められたらどんなに幸せか……アメリアちゃんとセットならもっと最高。カミラさんの家の壁になりたい。
「クロエ。キャリーがドン引きしてるから抑えなさい」
「あれ、声に出てました?」
「出てた」
おっと、思考がダダ漏れだったらしい。今日のペアは新人の子で、カミラさんがついて来ることになった時は可哀想なくらい焦っていた。
うん、突然隊長が現れたらそうなるよね。毎年、カミラさんに憧れて入ってくる隊員が後を絶たない。確かこの子もその中の一人だったはず。名前を呼ばれて感激していて可愛らしい。
「失礼しました。でも全部本音なので。キャリー、ごめんねー? 今ので分かったと思うけど、隊長は優しいからリラックスして大丈夫だよー」
「あ、はい……」
「クロエはリラックスし過ぎ」
「まあまあ、いいじゃないですか。あ! カフェすぐそこですよ! 今日アメリアちゃんはいますか!?」
「居るよ。リアは頑張ってるかな」
アメリアちゃんの話題を出せば、一瞬にして優しい表情になる。はぁ、眼福……!!
アメリアちゃんにでれっでれなカミラさんが見たい。切実に見たい。
「あの、アメリアさんって……?」
「そっか。知らなかったよね。リアは私の番」
「隊長の番なんですね!ん……? 隊長の、番……?」
遠慮がちに聞いてきた新人の子にさらっとカミラさんが答えるとへぇー、と納得した後、驚きに目を見開いている。アメリアって明らかに女性名だもんね。隊長の番が女の子って知らないとそうなるよね。
「カミラさんの番、女の子なんだよ。人族だけど、鱗を飲んで限りなく私たちに近くなってるよ。もうね、尊いから」
「うわぁ……隊長の番が女の子? 性別も種族も超えた番とか凄……」
私に負けず心の声がダダ漏れ。気持ちはよくわかるよ。
アメリアちゃんが働くカフェについて中に入れば、もうカミラさんのことは店員全員が知っているからアメリアちゃんを呼びますね、と言われて席に案内された。
「カミラさん、クロエさん、お疲れ様です。えっと、初めましてですよね? カミラさんの番のアメリアです。よろしくお願いします」
「リア……可愛い。ここおいで? 仕事は大丈夫だった?」
「はい。皆行ってきなって言ってくれてるので」
あぁ、もう声が甘い。話し方も優しいし、隣に座ったアメリアちゃんを心底愛しい、という目で見つめている。
そして番、って言われて嬉しそうに笑うカミラさんが可愛すぎてやばい。普段のカミラさんを見て可愛い、っていう人は居ないだろうけれどこのカミラさんは満場一致で可愛い、だと思う。眼福……!!
絶対このツーショット見たさに通ってる人もいると思うんだよね。カミラさんはたまに来ているみたいだし、会えたらラッキー、みたいな。
「アメリアちゃん、お疲れ様~! ツーショットが見たくて来ちゃった!! これでまた頑張れるよ!」
「え、ほんとに隊長……? あ、初めまして! キャリーです」
「あはは、クロエさん相変わらずですね。キャリーさんって言うんですね」
うんうん、別人?? って感じだよね。番にだけ見せる優しさが堪らない。最っ高!
「リア、今日のおすすめは?」
「これです。カミラさん好みの味付けだと思いますよ」
「じゃあそれで。リアは?」
「うーん……これか、いや、こっちかなぁ」
「デザート交換しようか。迷ってるのそこでしょ?」
「え、なんで分かったんですか?」
「ふふ、可愛い。それはもう、リアのことだからね」
あっまい!! あの、顔近くないですか? もうカミラさんにはアメリアちゃんしか見えてませんね。そのままキスしちゃってもいいんですよ? あ、アメリアちゃんが照れて離れちゃった……残念。
アメリアちゃんが注文を伝えに行ってくれて、少し待てばテーブルに各自頼んだものが並んだ。
「本当だ。好みの味付けで美味しい」
「良かった。最初に食べた時、カミラさん好きだろうなって思ったんです。今度お家でも作りますね」
「いいの? 楽しみにしてる」
「レパートリーが増えたので期待していてください」
「うん。いつも任せっきりでごめんね」
「カミラさんが喜んでくれるのが嬉しいし、料理は好きですから」
「リア……キスしていい?」
アメリアちゃんの唇を親指でなぞるカミラさん、エロ……色気が凄いです……正面から見てるアメリアちゃん、よく耐えられるな……
「ここではダメです」
「じゃあ、お家でね?」
「ふふ、はい」
はぁぁ、尊い……特等席で2人のイチャイチャを眺めながら食べるご飯は最高に美味しい。
「カミラさん、本当に食べちゃっていいんですか?」
「うん。リアが頼んでた方も食べる?」
「……ちょっと貰ってもいいですか?」
「ふふ、もちろん。ほら、口開けて?」
「……ん」
「かわい。もっと?」
「うん」
かーわーいーいー!! 恥ずかしそうに口を開けたアメリアちゃんにデザートをあーんするカミラさん、幸せオーラがやばい。もちろん見てる私も幸せです。
「ひっ!?」
「ん? キャリー、どうし……」
「カミラ? な に を し て る の か な?」
デザートを食べ終えた所で、キャリーが押し殺した悲鳴をあげた。視線の先にはエマさん。うわ、怖ぁ……
「何って、リアとランチ?」
「はぁ? そういうこと言ってるんじゃないんだけど? ちょっと身体動かしてくる、って言ってなかった?」
「うん。だから見回り」
「今日の担当じゃないはずだけど? 書類山積みなの見てるでしょ?」
「エマさ、今から隊長やらない?」
「や ら な い」
これだけ怒ってるエマさんにこの対応、さすがカミラさん。全然悪いと思ってない。
「カミラさん、お仕事放って来ちゃったんですか?」
「……書類仕事きらい」
困ったように聞くアメリアちゃんに眉を下げたカミラさん、萌え……!! そんな甘えたような表情反則じゃないですか?? こんな表情するんですね……!!
「そんな可愛い顔したってだめですよ? 今日はカミラさんの好きなご飯作って待ってますから、ちゃんと終わらせて早く帰ってきてくださいね? ……キス、してくれるんでしょ?」
「もちろん! エマ、ごめん。戻るわ」
上目遣いでお願いされて、即答したカミラさん。アメリアちゃん、猛獣使い……あ、猛竜?
「アメリアちゃん、ありがとう!」
「いえ、むしろカミラさんがすみません……」
「転職する時はぜひうちの隊に! じゃあ、クロエとキャリーは見回りの続きよろしくね」
「あはは、もしその時はお願いします」
アメリアちゃんが転職してきたらずっと2人を見られるってこと……? それは最高すぎる。ガン見しちゃって仕事にならなそうだけど……
「リア、じゃあ行ってくるね。仕事中なのにありがとう」
「お仕事頑張ってきてください。行ってらっしゃい」
「うん」
甘く微笑んでアメリアちゃんのおでこにそっと口付けをして、名残惜しそうに頬を撫でてエマさんとお店を後にした。
「あぁ~!! もう、アメリアちゃんに対するカミラさんの態度、反則!! 心臓やばぁぁ~!!」
「あれは、反則ですね……」
「ちょ、クロエさん落ち着いてください……!! 他のお客様もいるので」
「うん、ちょっと無理かも。でも大丈夫! きっと他のお客さんも同じ気持ちだから!!」
ちら、と周りを見渡せばあちこちで力強く頷いている。ほらね?
「えぇ……こほんっ、では、私は仕事に戻ります」
「私達も見回りの続き行こうか」
「はい」
会計をしようとすれば既に払われている、と聞かされてカミラさんが全額払ってくれていたことを知った。戻ったらお礼を言っておかないと。
さて、たっぷり補充させてもらったことだし、お仕事頑張りますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます