20.選択の時
あっという間に蜜月期間が終わって、通常の生活に戻っている。ただ、今までとは違って家に帰ればリアに会えるし一緒に眠れる。
毎日が幸せで、リアがいない生活によく耐えられたなって思うくらい。蜜月期間は今までの反動か、常にリアに触れていられて幸せな時間だった。日に日に私に馴染んできて、匂いが変わっていくと無垢なリアを汚してしまっているような気がしたけれど、独占欲が満たされていくのを感じた。
もうほぼ馴染んできたし、鱗が剥がれるのも時間の問題だと思う。結構剥がれてきてるから着替えとかで引っかかって痛痒いし無理やり剥がしたくなっちゃう。
剥がれても、リアには焦らなくていい、なんて言ったけれど、どうするかを選んでくれるまできっと落ち着かないんだろうな。
どちらを選んでも残された時間をリアと過ごすことには変わらないけれど。
「ん……今何時ですか?」
あどけない寝顔を飽きもせず見つめていると、リアが目を覚ました。今日は散々引き伸ばしてきた実家に行く予定で、リアは緊張していてあんまり眠れなかったみたい。そんなに緊張することないのに。
「8時。もう少し眠れるよ?」
「二度寝したら起きられないので起きますー」
体を起こして、眠そうに目を擦るリアが可愛い。可愛すぎて、何度そのまま押し倒したか分からない。今日はさすがに我慢するけど。
「カミラさんのご両親もやっぱり美形なんですか?」
実家まで歩きながら、緊張した様子でリアが聞いてくる。
「そっくり、とは言われるかな」
竜人族は若々しい期間が長いから、言われないと親だって分からないと思う。
「うわ、それ絶対美形……カミラさんが3人とかどうしよう」
私が3人、ってそれは気持ち悪いな。
「少し顔を見せたら直ぐに帰るし、2人とも穏やかだからそんなに緊張しないで」
「無理ですー!」
緊張してるリアも可愛いな。
「着いた。開けるよ?」
「は……い??」
「いらっしゃいっ!! 君がカミラの番? やっと会えたね。本当に女の子だ。しかも小さい。可愛いなぁ。随分カミラの匂いに染まってるね。酷いことされてない?」
玄関のドアを開けようとすれば、家の中からドアが開けられて、穏やかとは程遠い、居るはずのない兄の姿。
「……リアごめん。これは気にしないで」
「え? え?? 穏やか……? カミラさんのお義父さんですか??」
混乱するよね。私も予想外だった。
「本当にごめん。兄」
「カミラのお兄様でっす!」
「カミラさん、お兄さんいらしたんですか?!」
会わせたくなくて忙しい時期まで待ったのに、どこからか嗅ぎつけたらしい。
「残念ながら居るんだ。無視していいから」
「相変わらず冷たいな! 聞いてた通りでれっでれじゃないか。会議をさぼって来たかいがあった!」
「……仕事行け」
本当にこんなのが団長でいいのか?
「それで? 番の子のお名前は?」
「あ、初めまして。アメリアです」
そんなに丁寧な挨拶なんていらないのに。そしてさりげなくリアの手を握ろうとするな。遊び人め……
「痛った?!」
「リアに触れるな」
「おー、怖っ。アメリアちゃん、可愛い名前だね。カミラに何かされたら逃げておいで。名残惜しいけれど、仕事に行ってくるよ。今度ゆっくりお茶でもしながら、カミラの昔の話を教えてあげる。もちろんカミラ抜きでね」
「そんな機会はない。さっさと行け」
パチン、とウインクをして家を出ていったけれど、妹の番にまで誘惑するのやめろ……
「今の人がカミラさんのお兄さん……」
「うん。本当にごめんね。いない時を狙ったんだけど」
「見た目は良く似てるのになんというか……元気な方ですね」
先に兄と会って耐性がついたのか、両親との初顔合わせは始終和やかに終わった。良かったのか悪かったのか……
「はー、緊張しました……」
「お疲れ様。会ってくれてありがとう」
「いえ! お会いできて良かったです」
家に帰ってきてソファに並んで座れば、私にもたれかかってくるリアはリラックスしていて、自然に甘えてきてくれて嬉しい。そして可愛い。
「可愛いね」
「え? 何がですか?」
無意識なのかな? 可愛すぎない?
「甘えてくれるようになったなぁ、って」
「カミラさんに触れてると安心します……んっ」
私を見上げてふにゃ、って笑うリアに誘われるように口付ければ抵抗なく受け入れてくれる。
「安心してくれるのは嬉しいけど、無防備すぎるよ?」
「ぁっ、まだお昼……! ふぁ……首やっ」
唇を下げていって首にキスをして、甘噛みすればすっかり蕩けた目で見つめてくる。
「リア。いや? そんなに蕩けた目しちゃって」
「……やじゃないです。でもここじゃ嫌です」
「可愛い。ベッド行こ」
リアからのOKが貰えたし、と抱きかかえれば恥ずかしいのか、私の胸に顔を埋めてくる。たまにスリスリしてきて、良くやってるけど胸が好きだったりするのかな? そんな所も可愛いけど。
「うーん……あれ、カミラさん寝てる……?」
裸のままリアを抱きしめて微睡んでいると、目を覚ましたリアが頬をつついてくる。可愛いから寝たふりしておこう。
「珍しー。そういえば、鱗どんな感じだろ……おわっ?! え、剥がれた……どうしよ?! 痛くないのかな? まだ寝てる?!」
鱗を触ってるな、と思えば剥がれたらしい。
「ふふっ」
「もしかしてカミラさん起きてました?! 鱗っ!! 剥がれましたよ!」
もう少し寝たふりをしようと思ったのにあまりにもリアが慌てていて思わず笑ってしまった。可愛いな。
「ごめんね、起きてた」
「やっぱり! 剥がれましたけど、痛くないですか?」
「うん。全然平気」
「良かった」
ホッとしたように笑ってくれて、優しいなぁ。剥がれたところを触ってみれば、鱗の形にへこんでいるけれど、皮膚は他の部分と変わらない。リアが苦手だし、出血するような剥がれ方じゃなくて良かった。
「それ、預かっておこうか?」
ずっとリアに持たせておくのもプレッシャーになりそうだし。
「今飲んじゃってもいいですか?」
「え? もちろんいいけど、いいの……?」
「はい」
うわ、私の方が動揺してるかも。飲む、って決めてくれてたのかな?
飲む前に変化について説明しておかないと。
「ありがとう……もうリアの身体は適応できる状態だから、早ければすぐに反応が出ると思う。分かりやすいところだと、視力とか嗅覚とか性欲かな?」
「なんか最後……」
性欲は嗅覚に紐づいて、って感じだけれど、かなり分かりやすいと思うし、驚くと思うな。
「数日かかる人もいるから、すぐじゃないかもだけど、どんなリアも受け入れるから安心してね」
「……はい。いただきます。あ、甘い」
なんだろう。自分の一部だった物をリアが飲むって凄いドキドキする。不味くなくてよかった……
個人差があるから数日は何も変わらない、ということもあるけれど、リアはなんの反応から出るかな?
「ーっ?! は、はぁ、はっ……」
しばらく様子を見ていると、リアの様子が変わった。目を見開いたかと思えば、息が荒くなって何かを必死に耐えている。
この感じだと、嗅覚が先に変化したのかな。リアにとって魅力的な匂いみたいでよかった。リアは耐える必要なんてないし、早く楽にしてあげたい。
辛さはよく分かるから。
しばらくは変化に戸惑うだろうからちゃんとフォローして、リアが選んでくれたことを後悔させないように、これからも全力で愛を注ぐから覚悟していてね?
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