第3章 番(つがい)編

15.お泊まり

 ヒロイン(アメリア)視点


 カミラさんが迎えに来てくれて、番登録を済ませた。ネックレスへの加工も知らぬ間に会計が終わっていて、またプレゼントされてしまったし、今度なにかお返ししないと。


 まだ実感がないけれど、カミラさんの番になったんだよね。いや、カミラさんにとっては会った瞬間から番なんだけれど。私の番にカミラさんがなった? うーん、表現がよく分からないな。


 横に座っているカミラさんを見ればバッチリ目が合う。もしかしてずっとこっち見てました?


「美味しい?」

「美味しいです!」


 カミラさんおすすめのお店で少し遅めのお昼ご飯を食べ終えて、今はデザートのケーキを頂いている。


「喜んでくれて良かった。この後どこか行きたいところはある?」

「うーん、この前案内してもらいましたし、特に思い浮かばないです」


 主要な観光地は回ったし、まだ行ってない所は結構遠かったりするから今からだと遅くなっちゃいそう。


「そっか。それなら食べ終わったら家でのんびりしよっか」

「はい!」


 カミラさんの家ってどんな感じなんだろう? あれ、よく考えたら家に行ったら2人きり? どうしよ……


「リア? もう食べないの?」

「あ、もうお腹いっぱいになっちゃって」


 前にこの先は2人の時に、と言われた事を思い出して一気に緊張してしまって味が分からなくなってしまった。うう、残しちゃってごめんなさい……


「持ち帰りもできるけどどうする?」

「カミラさんが食べれたら食べてください」


 持って帰っても食べられない気がするから、それならカミラさんに食べてもらった方がいいよね。


「いいの? 貰っちゃうね」


 ケーキを食べるカミラさんって何だか可愛いな、と思って見ていたら不思議そうな顔をされた。そんな表情も素敵ですね!

 ちょっとテンションがおかしくなってる気がする……



「なにか飲み物とか買っていこうか?」

「はいっ! 私が買います!」

「ふふ、可愛い。じゃあお願いしようかな」


 さっきもカミラさんが払ってしまったし、と勢い良く答えればカミラさんに笑われた。ちょっと子供っぽかったかな?


 買った飲み物はカミラさんが持ってくれて、反対の手は私の手を握っていて歩くペースも私に合わせてくれている。


「リア、どうぞ」

「お邪魔します」


 あっという間に家に着いてしまって、玄関を開けてくれたから先に入らせてもらう。中に入れば、余計なものがないスッキリした部屋ですごく綺麗に片付いている。


「すごく綺麗ですね」

「物が少ないだけだよ。あんまり物欲がなくて」


 私も同じだけれど、部屋はとても片付いているとは言えない。見習って綺麗にしよう。


「家の中案内するね」

「あ、お願いします」


 家の中を案内してもらうのにも手を繋いできて、嫌じゃないけど緊張する。寝室を見せてもらった時には、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかってくらいドキドキした。今日って一緒に寝るのかな……


「リア、おいで」


 ソファに座ったカミラさんが膝をぽんぽん、として呼んでくるけど、乗れってことですか? そんなの無理。


「無理ですー!!」

「緊張してる? 何もしないから」


 何かされるんじゃないかっていう心配も確かにあるけれど、何よりも場所が問題なんです……!


「嫌?」


 動けずにいたら、眉を下げて聞いてくる。そんな悲しそうな顔するなんてずるいです!

 え、座るとしてもどっち向き? どうしたらいいの?!


「リア。隣になら来られる?」

「隣なら」


 あわあわする私を見かねたのか隣に、と言ってくれたからカミラさんの気が変わらないうちに急いで隣に座る。ちら、と見上げればくすりと笑って頭を撫でてくれた。


「可愛いね。リアが嫌がることはしないから、自分の家だと思ってくつろいでくれたら嬉しいな」


 そう言ってくれるカミラさんの表情は優しくて、番登録を終えてもカミラさんは変わらず私を気遣ってくれて安心する。それなのに、2人になったらすぐに何かされるかも、と思っていて申し訳なくなった。


「どうかした?」


 ちょっと落ち込んだ私に気づいて、頭を撫でてくれていた手が止まる。


「その……2人になったので、あの……」


 恥ずかしくてその先が言えない。でもこれだと誘ってるみたい?! 


「すぐに手を出されるんじゃないか、って?」

「……はい」


 良かった、ちゃんと分かってくれた。


「リアにとって全部急だっただろうし、怖がらせたい訳じゃないから。少しずつ私に触れられることに慣れて?」


 正直怖いし、待ってもらえるのは嬉しいけれどカミラさんは大丈夫なのかな? 右手は私の頭の上だから見えないけれど、左手を見る限り傷つけてはなさそう。


「あの、カミラさんは大丈夫ですか?」

「ん? ああ、抱くのを我慢できるのかってこと?」


 そんなにストレートに言われると恥ずかしい。頷けばカミラさんが苦笑した。


「正直に言うと、結構ギリギリではある。でも番登録もして、精神的に満たされてるから。リアの準備ができるまでちゃんと待つよ」


 やっぱり我慢させてるよね、とカミラさんを見上げれば私の両頬にそっと手が添えられて、親指で唇を撫でられる。


「もちろん、リアが許してくれるなら私は今からでも大歓迎だけどね?」

「今からっ?! 待っていただけたら嬉しいですっ!!」


 私に気を遣わせないために、っていうのもあると思うけれど、くすくす笑ってるし、絶対からかってる!!


 それに手が添えられたままだし、カミラさんの綺麗な顔が近い。これはこの後どうしたらいいんでしょうか……キスする流れ? 目とか瞑った方がいいの??


 どうしたらいいのか分からないし、至近距離から見つめられて視線が泳いでしまう。もう耐えられない、とどう逃げようか考え始めた時にカミラさんの目がうっとりと細められた。


「キスはしてもいい?」


 この前は確認せずにしてきたのに、と思いながらも頷けば、顔中に啄むような口付けが降ってくる。


「嫌だったら噛んでいいから」


 え、噛む……? 何を? と思った時にはもうカミラさんの唇が重ねられていた。初めは軽く触れるだけのキスだったけれど、唇を舐められてびっくりして口を開けばカミラさんのし、舌が……

 頭が真っ白になって何も考えられない。


「はぁ、は、はっ……」

「ごめんね、苦しかったね」


 初めてのことで上手く息継ぎなんて出来なくて、荒い呼吸を繰り返す私の背中をあやすようにさすってくれる。ぎゅっとしがみつけばカミラさんが嬉しそうに笑った。


「ふふ、可愛い。リア、顔見せて?」

「やです……ぐすっ」


 嫌だったわけじゃないのに、じんわりと涙が浮かんでくる。

 話には聞いたことがあったけど、皆こんなことしてるの?! 恥ずかしすぎるし、とてもカミラさんの事なんて見られない。


「怖くはなかった?」


 優しい声でカミラさんが聞いてくるから、しがみついたままで頷く。軽いキスだと思っていたから驚いただけで怖いとは思わなかった。


「良かった。驚かせてごめんね。……っ!」


 しがみついていた手を離してちら、と見上げればカミラさんが息を飲んで、蕩けるような目で見つめてくる。


「そんなに涙をいっぱいためて……そんな顔、私以外に見せちゃダメだよ?」


 そう言って顔を寄せてくるからまたキスされるのかと思ってギュッと目を瞑れば、零れた涙を舐め取られた。


「なっ……?!」


 え、カミラさん何してるの?! びっくりして涙も引っ込んだ。目を開ければ、ペロリと唇を舐めたカミラさんがはぁ、と息を吐いた。吐息が色っぽいんですけど……


「リアはいい匂いがするし、甘いね」

「え、そんな匂いなんてします……? 甘い、って涙がですか?」


 カミラさんの匂いがする、とは言われたけれど、私の匂いもそんなにするのかな? それに涙ってしょっぱいような……


「うん。初めてあった日、匂いに引き寄せられたんだ。とても抗えなかった。今も物凄くいい匂いがするし、リアはきっと全部甘い」


 うーん、自分じゃ分からないな。いい匂いに甘い、って食べ物みたい。


「あはは、なんだか食べ物みたいです……ね?」


 思ったことをそのまま言葉にしてカミラさんを見上げれば、妖しく微笑んでいる。あれ、私なんか変なこと言った……?


「ふふ、今すぐにでも食べちゃいたいくらい。食べられてくれる?」

「やぁっ?! 私なんて美味しくないと思います……!!」


 頬を撫でられて、その手が首筋に降りてくるからビクッとして変な声が出てしまった。

 食べる、ってあれだよね? そういう意味だよね? 首を撫でるカミラさんの手つきがエロいです……


「ちょっとだけ味見させて?」

「えっ、ちょ……まって、ひゃっ?!」


 首にカミラさんの唇が触れて、舐められたかと思えば甘噛みされる。全く痛くないけれどくすぐったいしゾクゾクする。


 まだカミラさんの家に来てあまり時間が経っていないのにこんな状況で、私はこの後どうなるのでしょうか……

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