4.お弁当
ヒロイン(アメリア)視点
思いがけず連休ができたから、ずっと来てみたかった竜人族が治める国に旅行に来た。
周辺国の中でも治安が良くて、竜人族の精鋭が治安維持をしているおかげで女性の一人旅でも安心、と評判だから。
過保護な父はかなり渋っていたけれど、国が違うとはいえ、距離的には隣街くらいだし、と母が後押ししてくれた。
人気があるという食堂兼宿に入って3泊分の部屋を取った。
一晩ゆっくり休んで朝ごはんを食べていると、ざわざわしていた食堂が一瞬静まる。
直ぐにざわめきが戻ったけれど、何かあったのかなと周りを見回せば、入口近くに立っていた、腰まで伸びた艶のある銀髪に切れ長の碧眼で、恐ろしいほど整った容姿の女性と目が合った。
驚いたように目を見開いたかと思えばうっとりと細められて、あまりにも愛おしげに見つめられるから目が離せなかった。意志の強そうな切れ長の碧眼がうっとりと細められると色気が凄くてぞわぞわする。
ものすごくモテそうで、遊んでそうだな、なんて失礼なことを考えてしまった。美形が多いと有名な竜人族でも、ここまで綺麗な人はいないんじゃないかな、と思っていたら、その竜人族だったらしい。竜人族って見た目は人族と変わらないんだね。
隣に座ってきたかと思えば、恋人になって、なんて言ってくるし……
よく知らないし、恋人にはなれない、と言った時の表情があまりにも辛そうで罪悪感が物凄くて思わず謝ってしまった。
番だと言われたけれど、私があんなに綺麗な女性の番だなんて、一体何が起きてるのだろうか……?
身近に獣人族の番がいるのに、なんでもっとちゃんと聞いておかなかったんだろう……
「アメリアちゃん、起きてる?」
カミラさんを見送った後、ベッドに寝転んで、ぼーっと初めて会った時のことを考えていたら、ドアがノックされてイザベラさんの声が聞こえてくる。
「はい、起きてます」
「カミラに言われて朝ごはん持ってきたけど食べられる?」
「直ぐに開けます!」
なんだろう? と思ったけれど、カミラさんがご飯を頼んでおく、と言ってくれていたんだった。本当に何から何まで申し訳ない……
ドアを開ければ、イザベラさんが朝ごはんの乗ったトレーを渡してくれる。
「無理して食べなくてもいいから、食べれる分だけ食べてね」
「ありがとうございます! 今日も美味しそうですね!」
こんなに美味しいご飯が食べられるなんて、それだけでも旅行に来てよかった。
「元気そうだね。少しは良くなった?」
「はい。昨日はカミラさんにご迷惑をおかけしてしまって……」
「一晩寝顔を見つめてた、って言ってたけど本当みたいだね。匂いが薄い」
え、一晩? 私が服を離さなかったから一睡もしてないってこと? 申し訳なさすぎる……
「私が服を離さなかったみたいで……そんなこと一言も言ってなかったですが寝てないんですね」
「寝れなかったんだろうねー。まあ、仕事柄徹夜なんて慣れてるから気にしなくて平気だよ」
慣れてるとしても、一晩付き合わせてしまったなんて……私が起きてからも、そんなことは感じさせずに、文句1つ言わずに私の体調を心配してくれていた。
そんなにお酒に弱いタイプじゃないと思っていたのに。今までは外で飲んでも気を張っているから酔うことはなくて、家に帰ってから一気に酔いが回って倒れ込むように寝ていた。
お酒が強かった? それとも一緒にいた相手がカミラさんだったから? 昨日会ったばかりなのにそれはないかな……でもカミラさんはなんか安心するというか、信頼出来る気がするんだよね。なんて、言い訳になっちゃうけど。
何かお礼しないとな……
「もし気になるなら、お弁当を渡しに行ったら喜ぶと思うよ」
落ち込む私に気づいてか、どこか楽しそうにイザベラさんが提案してくれる。
「お弁当……」
「そう。旦那に言えば11時くらいには用意できるけど」
迷惑じゃないかな、と思ったけれどイザベラさんが絶対喜ぶ、と言ってくれたからお願いすることにした。仕事中のカミラさんってどんな感じなんだろう?
ちなみに、朝ごはんは胃に優しいものばかりで、どれも美味しかった。気遣いが嬉しい。
しばらく休んで、指定された時間の少し前くらいにお弁当を受け取りに下に降りる。
「イザベラさん、朝ごはんご馳走様でした。美味しかったです」
「全部食べられたんだね」
「はい! お気遣いありがとうございました」
食器を受け取って、少し待っててね、と厨房に入っていった。
「お待たせ。これ、お弁当ね。アメリアちゃんの分もあるから、一緒に食べておいで」
「私の分までありがとうございます。いくらですか?」
「料金はカミラに請求しておくから」
「え?! 私が払いますよ!」
「カミラに怒られるからね。じゃ、行ってらっしゃい」
お礼、というかお詫びなのにカミラさんが支払うってどうなの……
そういえば、カミラさんの職場ってどこだろう?
「あの、カミラさんの職場って……?」
「あれ、カミラから聞いてない? 騎士団の詰所にいるよ」
カミラさん、騎士なんだ……
イザベラさんに見送られて詰所に向かうと、家族なのか沢山の人が入口に並んでいるから後ろに並ぶ。
「はい、次の方ー。誰宛ですか?」
「えっと、カミラさんなんですけど……」
「はー、またか。アポはありますか?」
「無いです……」
順番が来て、カミラさんの名前を出したら、騎士のお兄さんがため息を吐く。イザベラさんはアポがいるなんて言ってなかったけどな……
「今日何人目だ……アポがないと通せないんです」
「そうなんですね……これ、お弁当なんですが渡して貰えませんか?」
「申し訳ないですが受け取りも出来ません」
カミラさんに会いたいって来る人が多いのかな……そりゃあんなに綺麗だもんね。
うーん、仕方ないけど諦めるしかないかな……
「交代するよー、ってあれ、隊長いる? ……じゃないね」
「隊長??」
どうするか迷っていると、交代の時間だったのか、後から来た騎士のお姉さんが私を見てきょとんとしている。隊長って誰?
「噂の隊長の番ちゃんか。薄いけど、隊長の匂いがするし」
「番っ?!」
「そう。隊長が番を見つけた、って言ってて。この子は私が案内するからもう少しお願い出来る?」
「分かりました。さっきは通せない、なんて言って申し訳ない」
「いえ、全然!」
対応してくれたお兄さんが謝ってくれたけれど、別に高圧的な態度だった訳でもないし、正しい対応だったと思う。
「じゃ、案内するよ。私はアイラ。隊長の部下の1人なんだ」
「アメリアです。あの、隊長って……?」
「カミラさんだけど……あれ、カミラさんの番ちゃんだよね?」
話の流れからそうかな、とは思ってたけどカミラさんって隊長さんなの?!
「番……カミラさん曰くそうらしいです」
「やっぱりそうだよね。カミラさんから聞いてて、会いたかったんだ」
やっぱりって、イザベラさんも匂いが薄い、とか言ってたけど竜人族には分かるのかな? というか一緒にいただけで匂いなんてつくの?
私には全く分からないし、対応してくれた騎士のお兄さんも分からなかったみたいだから人族には分からない何かがあるのかな……
アイラさんに連れられて歩いていると、人族以外にも獣人族や有翼種と色んな種族が目に入る。この人達全員の隊長ってことは無いよね……?
「あの、アイラさん、カミラさんってここにいる騎士さん全員の隊長さんなんですか?」
「ううん。カミラさんは竜人部隊の隊長。他にも沢山の部隊があるよ」
私の国ではこんなに沢山の種族を見ることがないから、ついキョロキョロしてしまって、アイラさんから微笑ましげに見られてちょっと恥ずかしかった。
詰所は広くて、1人だったら絶対迷子になってる。アイラさんに会えてよかった。
カミラさんは喜んでくれるかな……?
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