3.お酒

 時刻は17時。普段ならまだ仕事をしているけれど、リアはちゃんと居てくれるかな、とそわそわしていたら仕事なんていいから早く行け、とエマに追い出された。私の扱い……


 約束の時間には早いけれど、食堂に入ってカウンター席に座る。


「お疲れ。今日は早いんだね?」

「エマに後はやっておくからって追い出された」

「あはは、頼れる副隊長で良かったね」

「まあね。リアは部屋かな?」

「昼間出かけてたけど、少し前に帰ってきてるよ」


 ちゃんと居てくれて良かった、と明らかにほっとした私をニヤニヤした目で見てくる。イザベラ、絶対楽しんでるよね?


「イザベラ、朝はごめん。話途中だったし何も頼まなかったし。飲み物ちょうだい」

「全然。それどころじゃなかったもんね。お酒がいい?」

「ううん。飲んだら理性飛びそうだから適当にジュースで」


 お酒は強い方だけれど少しでもお酒が入るとだめな気がする。

 まだ約束の時間には早いから飲み物を飲みながら時間を潰す。早く来ないかな。


「……あ」

「リア。来てくれてありがとう」


 19時少し前になるとリアが降りてきて、私を見て本当にいる、と言うような表情を浮かべる。少しでも楽しみにしてくれていたらいいのだけれど。


「座って。リアは何が好き?」

「お肉が好きです」

「おっけー。イザベラー、お肉料理でオススメのやつ適当にお願い」


 少し緊張してるかな? でも好きな物を教えてくれて嬉しい。


「お酒は好き? あ、成人してる?」

「はい。18歳になりました! お酒大好きです!」

「お、いいね。ここは美味しいお酒いっぱいあるよ」

「え、本当ですか?! 楽しみー!!」


 キラキラした目で見上げられると、身長差があるから自然と上目遣いになって可愛すぎて辛い。なんなの? かわいすぎでしょ……


「可愛いね。まずは軽めのこの辺がいいと思うよ」

「かわっ……?! えっと……じゃあこれにします」


 あんまり褒められ慣れてないのかな? こんなに可愛いのに。


「お待たせ。串の盛り合わせねー」

「ありがとう。イザベラ、リアにこれお願い」

「OK。待っててね」


 少し待って、串の盛り合わせがテーブルに置かれると、リアはもうそわそわしている。本当に好きなんだね。


「好きなの食べて。イザベラの旦那の料理はどれも美味しいよ」

「イザベラさんって結婚されてるんですね」

「うん。旦那も竜人族で番なんだ」


 竜人族同士の番で、見ていて幸せな気持ちになるくらいお互いを思いやっていて羨ましい。


「番ってすぐ分かるんですか?」

「うん。番を見つけたら他は目に入らないし、浮気も絶対にしない。もし結ばれなかったとしても代わりはいないんだ」

「ふわぁ……番って凄いですねぇ!」


 キラキラした目で凄いって感心してるけど、リアが私の番だってちゃんと分かってるのかな?


「リアを見た時にすぐ分かったし、誰よりも愛しいなって思う」

「い、愛しいっ?!」


 さっきの様子から一転してあわあわしていて、本当に素直な子だよね。


「もちろんリアの気持ちが優先だから、少しずつ知って貰えたら嬉しいな。はい、あーん」

「え……あ、いただきます……」


 遠慮しているのか、ちらちら見ているけれどなかなか食べないから、口元に差し出してみれば戸惑いつつ食べてくれて、ぱあっと笑顔になる。口にあったみたいで良かった。


 嬉しそうなリアが可愛いし、こんなに直ぐに食べてもらえるなんて思わなかったから、愛しさでいっぱいになる。番に食べさせたがる気持ちが物凄く分かった。リアが口にする物は私が全部食べさせてあげたいくらい。


「リア、こっちも美味しいよ」

「ん、美味しい!! これが一番好きです」

「ふふ、可愛い。もっといる?」

「はい!」


 最初は戸惑いがちだったけれど、もう慣れたのか抵抗なく食べてくれるようになった。こんなに素直で今までよく無事だったな……


「リア、誘われてもついて行っちゃだめだからね?」

「え? いきなりなんですか?」

「素直すぎて心配。今日からでも家においで?」

「あはは、言ってること矛盾してますよ」


 ……確かに。でも、こんなに可愛いんだもん、いくらイザベラの所とはいえ心配。


「えー。だってリア、モテるでしょ。うかうかしてたら取られそう」

「モテたことなんて無いです。それを言うならカミラさんですよ。ずっと周りから視線を感じてますもん……」


 本当かなあ……それって気づいてなかっただけなんじゃ? よっぽど大切に守られてきたのかもしれないけれど。


「お待たせ。はい、お酒ね」

「ありがとうございます! カミラさん、見てください! 可愛い色ー」

「ふふ、可愛いねぇ。本当に可愛い」

「可愛いですよねー!」

「見事に噛み合ってないわ……それにしても、カミラがこんなにデレデレになるとはね」


 自分でもデレデレなのは自覚があるから、元から私を知っていると余計だよね。


「そんなに違うんですか?」

「違う違う。懐に入れれば笑うこともあるし優しいけど、こんな風じゃないし、知らない相手とか興味が無い相手には基本無表情だもん」

「想像つかないです……」

「リアには見せることはないよ。ほら、お酒飲んでみて?」


 冷たくなんてできる気がしないし、考えただけで自己嫌悪でどうにかなりそう……


「わ、甘くて美味しい! お代わりくださーい!」

「えっ?! リア、お酒強いの?」


 もう飲んだの? ここでは軽めのやつとはいえ、人族にはそれなりのはずだけど……


「んー? ふつうですー」


 あ、これはダメだわ。好きだけど弱いのか……ふわふわして、危なすぎる。いくら治安がいいとはいえ、とても1人にしておけない。


「リア、お水にしよ?」

「いやですー!」

「ほら、いい子だから飲んで?」

「さっきの甘いやつがいいです」


 ムスッとして水を受け取ってくれないし、睨んでくる目は潤んでるし顔は赤いし、匂いが強くなってくらくらする。


「はぁ……きっつ。リア、部屋に戻れる?」

「まだ飲みますー! カミラさんも一緒に飲みましょー?」

「ぐっ……」


 何この可愛い子。私は理性を試されてるのかな?


「……最後に1杯だけね?」

「わーい!!」


 じーっと見つめられてダメって言えなかった……喜ぶ姿がとにかく可愛い。


「イザベラ、弱いやつお願い」

「あはは、あのカミラが押し負けるとは」

「勝てないって……」


 好きな子が上目遣いで一緒に飲みたいって言うんだよ? そんなの断れないって。


「アメリアちゃんを見る目付きがエロいし色気がダダ漏れ。客がそわそわしてるから抑えて」

「もうさ、無理でしょ……辛すぎ……」

「あはは、頑張れー」


 他人事だと思って……飲ませて、部屋に戻そう。


「ほら起きれる?」

「んー?」


 飲み終わる頃にはうとうとしてきて、今はすっかり眠っている。

 これは部屋まで運ぶしかないか……イザベラとはいえ触れさせたくないし。所謂お姫様抱っこをすれば、驚くほど軽い。気持ちよさそうに眠っていて愛おしい。


「イザベラ、リアの部屋どこ?」

「2階の一番奥」

「ありがと」

「ごゆっくりー」


 会計を終えてイザベラを見れば物凄くニヤニヤしてる。寝かせて直ぐに戻ってこよう。


 リアの荷物から鍵を取って部屋に入って、そっとベッドに寝かせて離れようとしたら服を掴まれていることに気づいた。え、なにこれ可愛い。


 離させようとしたけれどしっかり握られていて離してくれそうにない。無理やり剥がすと怪我させそうだし……

 いっそ脱ぐ? でも脱いだら下着だし、治安維持をする立場で露出はさすがにね……無理だよね。


 このまま一晩過ごすってこと? うわ、つら……


 ぐっすり眠るリアの額や頬にそっと口付ける。人族には分からないだろうけれど、竜人や獣人には番がいるって匂いで分かるはず。


 リアは結局朝まで目を覚ますことはなくて、一睡も出来ずに朝を迎えた。耐えきった自分を褒めたい。


「リア、リアー?」

「んぅ……えっ? カミラさん??」

「おはよ」

「おはようございます……?」


 リアに声をかけて起こすと、状況が理解できないのかぽかんとしている。ちょっとぼんやりしているけれど寝起きはいいみたいだね。


「どこまで覚えてる?」

「えっと……? うわぁ……ご迷惑をおかけしました……」

「頭痛とか吐き気は無い?」

「ちょっとだけ頭が痛いです……」


 記憶もしっかりあるみたいで、身体を起こして申し訳なさそうに眉を下げている。


「今日はゆっくり休んで? ご飯は部屋に持ってきて貰えるようにイザベラに言っておくね」

「すみません……あ、昨日のお会計……」

「そんなのいいよ」

「何から何まですみません」


 しゅんとして頭を下げてくるけど、気にしなくていいのに。危ないから私以外の前では飲まないで欲しいけど。


「気にしないで。リアの可愛い寝顔が見られたしね」

「……っ?! うわ、恥ずかしい……」


 真っ赤な顔で俯くリアの頭を撫でれば、ちら、と見てくるだけで嫌がる素振りはなくて無防備すぎる。

 このままいたら離れられなくなっちゃうな。


「ふー、よし、それじゃ仕事行こうかな」

「はい。行ってらっしゃい」


 リアに見送られて1階に降りればイザベラがニヤつきながら見てくるけれど、期待してるようなことは何も無いよ?


「おはよ。リアが二日酔いだからご飯部屋に運んでもらえる?」

「OK。寝不足? お楽しみ?」

「寝てるリアを眺めて一晩過ごした」

「え……本気で言ってる?」

「もちろん本気。じゃ、朝ごはんよろしくねー」


 そんなに有り得ないものを見るような目で見るなって……自分でもよく耐えれたな、って驚いてるけど、大切にしたいからね。

 仕事終わりにまた様子を見に来よう。

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